2021年1月11日月曜日

裏設定の宝庫『ポケットモンスター図鑑』

ポケモンで有名な都市伝説。

あるあさのこと。
ちょうのうりょく しょうねんが
ベッドから めざめると
ユンゲラーに へんしん していた。
ゲーム「赤・緑」のポケモン図鑑で読める、ユンゲラーというキャラクターの説明文だ。ポケモンの正体が、実は人間だったというセンセーショナルな内容から、話題にあがりやすい。

実はこの文章には続きが存在しているのだ。

「ある朝のこと。超能力少年がベッドから目覚めるとユンゲラーに変身していた」ユンゲラーを題材にした小説『変身』が、<第2回>ポケモン文学賞を受賞したのは記憶に新しい。ピカチュウが"アイドルのポケモン"だとすれば、ユンゲラーは"玄人好みのポケモン"といえる。/『ポケットモンスター図鑑』(1996)

なんと、少年がユンゲラーに変身した話は、小説の架空の出来事だったのだ……
出典もなしに引用、誤解を与える形で切り取るとは、"図鑑"にあるまじき記述!


伝説の攻略本『ポケットモンスター図鑑』


画像左が表紙、右が裏表紙

この詳細な文章が掲載されている攻略本『ポケットモンスター図鑑』は1996年4月5日発行。ゲームが発売されたのは同年2月27日。うるう年だったので1ヶ月とちょうど1週間後に出た、攻略本としては最古の部類になるだろう。当ブログでも度々紹介しているポケモン考察には欠かせないバイブルだ。


初代ポケモンがブームになってからは沢山の攻略本が出版されているが、ポケモンの世界観や生態描写そのものが濃厚に掲載されている書籍はこの他に無いだろう。全143頁中、半分の76頁は読み物と開発スタッフのインタビューだ。ゲームの登場人物であるオーキド博士やマサキによる講義も掲載されている。


ポケモン原作ゲームの開発元、ゲームフリークがしっかり関わっている本でもある。制作者自身による世界観の補完的な資料集といって良いだろう。


執筆の一人とみさわ昭仁氏は、「ルビー・サファイア」〜「ハートゴールド・ソウルシルバー」までシナリオを担当したスタッフで、最新作「ソード・シールド」でも久々にシナリオに協力されている。

ポケモンの(最初の)公式イラストを最初に描き起こしたのも、この本のためだと、ゲームフリークの杉森 建氏もインタビューで述べていた。(聞き手は とみさわ氏)

ー最初に公式イラストが必要になったのって、 何のためだったんでしょう? 

杉森 『ポケモン赤・緑』の最初の攻略本で、アスペクトから出た『ポケットモンスター図鑑』に全ポケモンのイラストを掲載したいと 言われて描いたのが最初ですね。でも、その段階ではポケモンの原画ってドット絵しか存在しなかったので、そのドット絵から全部自分の絵として描き起こしていったんです。ちょっと気にくわないところは修正したりして(笑)それで全部自分のキャラクターらしくしたのが、以後、僕がすべてのポケモンのテイストを統一させるようになったきっかけですね。/『杉森建の仕事』(2014)

『ポケットモンスター図鑑』のために かなりの手数がかけられていることがわかる。


ちなみに 初代ユンゲラーの図鑑説明文が小説の引用であることが、その後の原作ゲームや他の媒体で触れられたことはなく、さらに後のシリーズではこう書かれている。
ちょうのうりょくの けんきゅうを てつだっていたエスパーしょうねんが あるとき とつぜんユンゲラーに なったと うわさ されているのだ。/エメラルド(2004)
エスパーしょうねんが じぶんの なかの サイコパワーを おさえきれなくなり へんしんして しまったとの せつも。/サン(2016)
出典不明の情報が噂となりいつのまにか"説"として扱われる…ポケモン図鑑による風説の流布が、現在進行形で進行していることがわかる。

(2023.08追記)ポケモンLegendsアルセウスで古い時代にも ユンゲラーへの変身譚が存在したことが明かされた。
神通力有す童が変容した姿と噂あるも真偽不明。手に持つ匙は脳波を高める効能ありと推察す。/Legendsアルセウス(2022)
初代の図鑑文章が引用であることには変わりがないが、その小説『変身』自体が民話として既に存在する変身譚から着想を得た内容なのかもしれない。(追記おわり)

長く続いたシリーズの中で言及されなくなったり、「中国」のような実在の地名が「東洋」に書き換えられたりといった変更は存在する。

『ポケットモンスター図鑑』にしか記載されていない数々の「裏設定」を紹介しつつ、現在のポケモンシリーズ全世代の図鑑文章と比較して、今でも通用するのか検証していこう。


赤緑より詳しく書かれている情報
ニドラン♀は進化するとタマゴが産めない
野生の産卵とタマゴシステム
ミニリュウとポケモンブーム
オーキド博士のフルネーム
ゲーム完成時点の世界観
アニメ初期≒小説版と現実の動物
東京タワー?現在避けられる言葉

2020年9月18日金曜日

ポケモンらしさ-9_BWとデザイナー

2010年9月18日は「ポケットモンスターブラック・ホワイト(以下BW)」の発売日。
ちょうど10年たった今、登場ポケモンのデザインについて触れたい。


今年2月に非公式に「ポケモンらしさ」アンケートを行い、回答者の年代やプレイ経験差から生まれるポケモンのデザイン』に対する主観の違いを分析してきた。
BWはデザインの転換期であるとの声も多く寄せられた。


究極のポケットモンスターを目指した「ダイヤモンド・パール(以下DP)」までは新規や既存のキャラクターの進化系列など、バリエーションを継ぎ足しながら世界観を豊かに、プレイヤーを飽きさせないように工夫が為されてきた。(DPのデザインについては別の形で触れる)


新種が追加される区切りで言うと"第5世代"にあたるBWでは、それまでの既存キャラクターを一時封印し、ゲームクリアまでは完全新種のみが登場する。

その数151種
初代赤・緑のキャラクターと同じ数だ。
クリア後に出会える追加要素や、劇場版アニメとの連動で得られる総数は156種となる。


既存のキャラクターに頼らず、しかしポケモンと出会い捕まえて育てる楽しさは変わらないように、デザインの「多様性」「バリエーション」は維持したい。恐らくそう考えての、初代キャラクター総数の踏襲だろう。

その内訳についても、強引ながら赤緑のバリエーションと比較した。
手探りの中151の多様性を開拓した初代と、その完成済みの151の多様性を14年の時を経てリブートしたBWの違いが一覧できる。

赤・緑151とブラック・ホワイト156のデザインのバリエーション比較図

5世代に渡って踏襲され続けてきた「御三家」「準伝説」「序盤〜」という枠は共通だ。

動物っぽいデザインや、無機物をモチーフにした種類、人型まで多少の増減はありつつ、ばらつき具合はかなり初代を踏襲した形跡が見られると言えるのではないだろうか。

この図ではうまく初代→BWのオマージュ対比がはまりきってはいない。初代自体が凸凹で今考えると歪なタイプバランスをしていたり、第2世代以降に定着した"枠"もある。そうしたズレも「変化」したポイントだろう。

BWは、初代からの継ぎ足しではない、総入れ替えだったことで「変化」が顕著に可視化されたタイミングだったのだろう。


2020年7月10日金曜日

ポケモンらしさ7_"デジモン"に関する意見


2020年の2月に行ったポケモンらしさアンケート 。23,000件の回答のうち、自由記述の意見投稿を6,841件頂いている。
今回は頻出単語としての「デジモン」に焦点をあてる。

ProfessorOK氏の、デジモン/ポケモンの画像の深層学習による分析レポート「最近のポケモンはデジモンっぽいのか、ディープラーニングに聞いてみた」の、参照元として デジモンに関連する投稿意見全てをまとめる。 


「デジモン」の単語が含まれる意見は155件。意見投稿の1.8%、全回答の0.5%だ。 
内容を精査すると、125件がポケモンのデザインに「デジモンっぽさ」を感じたことがあるという意見だった。

2020年6月2日火曜日

ポケモンらしさ-6_実写化とリアリティ

名探偵ピカチュウ』が先日、2020/05/22の金曜ロードショーでTV放送され、この作品に関するアンケートを行った。実写表現に関する設問は、2月の「らしさアンケート」で、聞きそびれて後悔していた項目だった。
 

アニメやマンガの実写化が反感を買いやすい風潮がある中、比較的評判が良く、珍しいケースといえる。

これまでデフォルメイラスト・アニメ調なデザインで慣れ親しんだポケモンに、公式作品としてリアルな質感を与える試みが、一定の成功を収めた今、改めて元々の「ポケモンデザイン」を見直すいい機会ではないだろうか。


*2020 6/2 21:50 リアリティに関する得票数の記載漏れとグラフを修正。
その他誤字脱字修正。

2020年5月20日水曜日

ポケモンらしさ-5_ヒトガタ増えた?

前回は、初代・赤緑の誕生から、ルビー・サファイアまでのデザインと制作環境の変化を確認した。

次の世代に話を進める前に「人型ポケモン」の定義をはっきりとさせておきたい。最新作で人型パターンがどの程度増加したのかカウントするためだ。

人型も様々 元ネタはこちら

四足動物モチーフが二足の「人型」に進化することと、初代からゴーリキーやルージュラのような「人型」がいることは、話している内容が全く違う

後者は 初代開発におけるバリエーションのひとつで、「亜人型ポケモン」と仮称、前者を RS開発で意識されたというバリエーションのひとつで「擬人化ポケモン」と仮称する。

"亜人"という言葉には広義にギリシャ神話などに登場する"獣人"も含まれるが、ここでは、人間文化側からデザインされたタイプと、動物をアレンジしたタイプを呼び分ける意図で用いる。

--人型デザインの定義を決める理由
--擬人化レベル
--擬人化・ケモノジャンル
--タマゴグループ「ひとがた」
--「形」分類
--定義した人型ポケモンを一覧
--人型デザイン調査のまとめ
下部に追加アンケート有り

2020年5月5日火曜日

ポケモンらしさ-4_デザイン史・赤緑〜RS


ポケモンらしさ」検証のため1996年に時渡りして公式資料を集めた。

前回は、ポケモンのデザインが生まれる会社ゲームフリークがどのように最初の151を生み出したか「赤・緑」発売以前までをまとめた。
次に、現在とは異なるビジュアルがどう変化していったか、プレイヤーにとって影響の大きな表現や環境の"段差"を確認する。


「ポケモンらしさ」比較に使用される画像が後年描かれたものであることは、アンケートの意見分析の際に触れたとおりだ。

まずはゲームフリーク杉森 建氏によるアナログの水彩塗り公式アートから、同氏のデジタル塗りの公式アートに切り替わった時代を順を追って確認しよう。

--コロコロコミックとゲームの普及 --ポケモンカード --「青」と海外版
--ポケモンに組み込まれた生命感
--アニメの影響とピカチュウ版 --金銀開発難航とアニメ事情
--第2世代 金・銀 --マイナーチェンジ版 クリスタル
--公式アート デジタル彩色への変化 --推察:何故デジタル彩色になったのか?
ゲームボーイアドバンス時代の空気感
--ドット絵からイラスト先行のデザインに --デザインの ゲンテンカイキ
--モンスターの先駆者 妖怪 --生命誕生・進化をより意識したモチーフ
--デザインの幅の試行、人型のポケモン --解像度向上と複雑さへのブレーキ
--赤緑〜RS デザイン変遷 まとめ
--概念と化したインドぞう

長い…

2020年4月22日水曜日

ポケモンらしさ-3_デザイン史〜初代開発史編

ポケモンの歴史を把握する


これまで「ポケモンらしさ」に関するアンケートを実施、その回答や寄せられた意見を分析してきた。

古参寄りか新参寄りか、現役プレイヤーか否か、プレイした本編タイトル経験数は、回答結果や意見記述に用いる単語の傾向に影響を与えていた。
またウワサされている「らしさの変化」の実態を検証し、関連意見に認知の歪みが存在していることも確認した。

20年以上続いた作品、900種以上数の増えたデザインに対し、生じた疑念に対して正確な情報を探すことも難しい。今回は、誤解が多い点をピックアップしながら「公式の情報源」をまとめていく。

その上で、アンケート回答者が感じた変化が、それぞれどこからなのか確かめてみよう。


--ポケモンのデザインを作っている会社
--ポケモンの著作権表記
−デザインの歴史
--プロトタイプ・カプセルモンスター
--モンスターボール
--はじめは ウルトラ怪獣
--製品版に残る開発過程の痕跡
--タイプ・伝説・進化系・御三家などの概念
--直接ドット絵を描いてデザインしていた
--公式アートによるキャラクターの解像度の向上

はじめに

このブログについて ポケットモンスターシリーズの世界観について、1人のファンが非公式に考えたことをまとめていくブログです。自身の意見の全容がわかるように置いておくのが開設理由です。 主に オリジナル である ゲーム (株式会社ゲームフリーク開発の本編) を中心 に、派生ゲ...