2020年9月18日金曜日

ポケモンらしさ-9_BWとデザイナー

2010年9月18日は「ポケットモンスターブラック・ホワイト(以下BW)」の発売日。
ちょうど10年たった今、登場ポケモンのデザインについて触れたい。


今年2月に非公式に「ポケモンらしさ」アンケートを行い、回答者の年代やプレイ経験差から生まれるポケモンのデザイン』に対する主観の違いを分析してきた。
BWはデザインの転換期であるとの声も多く寄せられた。


究極のポケットモンスターを目指した「ダイヤモンド・パール(以下DP)」までは新規や既存のキャラクターの進化系列など、バリエーションを継ぎ足しながら世界観を豊かに、プレイヤーを飽きさせないように工夫が為されてきた。(DPのデザインについては別の形で触れる)


新種が追加される区切りで言うと"第5世代"にあたるBWでは、それまでの既存キャラクターを一時封印し、ゲームクリアまでは完全新種のみが登場する。

その数151種
初代赤・緑のキャラクターと同じ数だ。
クリア後に出会える追加要素や、劇場版アニメとの連動で得られる総数は156種となる。


既存のキャラクターに頼らず、しかしポケモンと出会い捕まえて育てる楽しさは変わらないように、デザインの「多様性」「バリエーション」は維持したい。恐らくそう考えての、初代キャラクター総数の踏襲だろう。

その内訳についても、強引ながら赤緑のバリエーションと比較した。
手探りの中151の多様性を開拓した初代と、その完成済みの151の多様性を14年の時を経てリブートしたBWの違いが一覧できる。

赤・緑151とブラック・ホワイト156のデザインのバリエーション比較図

5世代に渡って踏襲され続けてきた「御三家」「準伝説」「序盤〜」という枠は共通だ。

動物っぽいデザインや、無機物をモチーフにした種類、人型まで多少の増減はありつつ、ばらつき具合はかなり初代を踏襲した形跡が見られると言えるのではないだろうか。

この図ではうまく初代→BWのオマージュ対比がはまりきってはいない。初代自体が凸凹で今考えると歪なタイプバランスをしていたり、第2世代以降に定着した"枠"もある。そうしたズレも「変化」したポイントだろう。

BWは、初代からの継ぎ足しではない、総入れ替えだったことで「変化」が顕著に可視化されたタイミングだったのだろう。


制作側の求めるポケモンっぽさとは


ポケモン本編ゲームの開発を手掛けるゲームフリーク・アートディレクターの杉森建氏は、
赤緑から10年たち DP発売当直前のインタビューでこう答えていた。

NOM:10年間ポケモンを描き続けて変わった部分とかはありましたか?

杉森:基本的には変わっていないんです。変わったなと周囲が感じるならば、それは前と違うことを試している部分だと思います。同じようなポケモンを増やしていく気はないので。『ポケモン』という世界がどこまで許容範囲があるのか試しているとでもいうか。


また、BWのキャラクターデザインのスタート時点ではこんな話もあったようだ。

杉森 オノノクスは、全イッシュポケモンの中で一番最初と言ってもいいくらい早い時期に出来たんです。まだ僕が『ポケモンプラチナ』に関わっていて、『ポケモンB·W』の開発が本格化していないころ、当時入って来た新人の女の子に新しいポケモンを描かせることになりまして。「かっこよくて恐竜みたいなポケモンを」というオーダーで描いてもらったのが、オノノクスです。

 最初は新しい人が作っただけあって「ポケモンぽくないなぁ」と思ったんですが、それが逆に魅力だと考えて、思いきって採用しました。
『Nintendo DREAM 2011/04』

サイドン(右上)と オノノクス(右下)

赤緑の開発最初期は、"モンスター"の響きから「かっこ良くいかつい怪獣」の方向性なデザインに偏っていたという。書籍情報やゲームデータの様々な痕跡から最も古いデザインはサイドンなのではないかと考えられる(後にデザイン細部や名称の変更があったが)。

あるいはガルーラやニドキングもその初期デザインに含まれる。上のオマージュ対比ではニドキングとサイドンを入れ替えてもほぼ成立する。


新人のメンバーにBW最初期のデザインを任せ、それもポケモンの多様性開拓の出発点である「怪獣系」のデザインをオーダーしたのであれば、まさしくそれは初代の開発を踏襲したスタートと言えるだろう。サイドン、オノノクスはゲーム内でも共にタマゴグループ"かいじゅう"に設定されている。

なにより、「同じようなポケモンを増やしていく気はない」杉森氏が「ポケモンぽくないなぁ」というデザインを次世代のポケモンに求める魅力としたこと。興味深い1エピソードだ。


恐竜の化石復元図が、研究が進み新たな学説が唱えられる度に変わったように、(参考:教えて!恐竜くん第1弾 羽毛や色…変化する恐竜の常識&日本の恐竜)
恐竜(ティラノサウルス)から着想された例えばゴジラなどの怪獣デザインも変化している。(参考:同じゴジラでもこんなに違う…!初代からアニメ版まで歴代ゴジラのデザインをフィギュアでイッキ見!)


昭和着ぐるみ怪獣なサイドンからシャープなオノノクスへの変化は、そうしたデザイントレンドの推移も反映された結果だろう。

個人的な当時の印象は「初代が昭和だとしたら、BWは平成ウルトラマンに登場する怪獣みたいだなぁ」だった。



デザイナーの増加



書籍「遊びの世界基準を塗り替えるクリエイティブ集団 ゲームフリーク」(2000)などによると、赤緑の時点では4人のデザイナーが151種のキャラクターをデザインしたそうだ。TVアニメは金銀編に入るまで、キャラクター原案として同じ4名がクレジットされている

ゲームエンディングのクレジット表記は、赤緑のマイナーチェンジ版・「青」では6名、「ピカチュウバージョン」では3名となっている。これらは毎作異なるグラフィックを「直接描画した」スタッフがクレジットされているとみられる。(描画作業に携わらず名前が載らなくても森本氏がカイリューをデザインした事実は消えない。)



金銀以降はグラフィッカー(ドット画を描く人)とデザイナー(デザインする人)が意識して書き分けられているようだ。このふたつは作品評価の文中でも混同が多いので気をつけたい。

金銀で8名、RSでは13名になっている。ポケモンキャラクターは継続して登場するため、この表記では関わったデザイナーの数は作品単体に対してではなく、シリーズ累計と見るのがいいだろう。

下線赤は新規デザイン参加 下線青はDPtに名前のない過去参加の方

対して、DPのクレジットでは新規デザイン業務に関わったスタッフのみ名前をのせているようである。

BWでミジュマルをデザインした大村氏はDPから、ポカブをデザインしたリヒョンジョン氏はプラチナ(Pt)から名前を見せる。にしだ氏はデザインのみでクレジットされ、グラフィックの描画には携わっていない。

リメイク作であるHGSSでは金銀開発時のスタッフの名前も含める関係か、歴代デザイナーが勢揃いでクレジットされている。


BWでは、ニンドリのインタビュー(2011/1月号)では17名が分業したと言われているが、エンディングで「ポケモンキャラクターデザイン」としてクレジットされているのは以下18名(敬称略)。色付きで赤いほど古参デザイナーである。

すぎもり けん
うんの たかお
ふじわら もとふみ
よしだ ひろのぶ
とやま けんきち
ふちの ひろき
おおむら ゆうすけ
つるた さや
リ ヒョンジョン
いべ まな
たのうえ れいこ
きたかぜ ともひろ
ふじわら まいこ
みずたに めぐみ
おおくぼ ともひこ
ジェイムズ ターナー
もりつぐ けいこ
にしだあつこ


こうして見ると、初代からBWまで、4人,8人,13人,18人…とデザイナーが増えている。
毎度入れ替わりを含めて稼働人数の約半数は新しいメンバーのようだ。

これまで毎世代亜種含め100前後の新ポケモンデザインが採用されているが、完成までにはその何倍ものアイディアが生み出されているという。
BWで150ものデザインを完成させるためにはこれだけの人数が必要だったのだろう。
(初代の6年に対して、BWの期間は4年)(もちろんデザインを絞るだけでは遊べないのでグラフィックを描き、アニメーションさせ…さらに人数が必要だ)



バイバニラやゴルーグなどをデザインしたジェイムズ ターナー氏は、ポケモンコロシアムなど外伝作品のグラフィックに携わっていた人物なので、ポケモンファンは既に「コロシアムXD」のダークルギアなど彼のデザインに触れる機会はあったかもしれない。


多人数でキャラクターのバリエーションを考案しようとも、それを採用するかどうか目を光らせていたのはアートディレクターの杉森建氏だ。

時に「ポケモンっぽくない」に魅力を見出す柔軟さを持ち合わせつつも、その仕事のほとんどが「ポケモンっぽくない」に対してブレーキをかける仕事。杉森氏の絵柄で統一された(アナログで描かれた線画の)公式アートへ出力された時点で「ポケモンらしさ」に至るのだろう。

………というのは杉森氏が描き続けられるうちの話である。描き手が交代した場合、ポケモンらしさが無くなっていくのか?がこの一連の記事の本題でもある。
言語化するのが難しいそれを、順を追ってまとめるため、またお時間頂きたい。

今回は以上。


2020年の2月から3月にかけて募集。今回の引用意見はこちらに投稿されたもの。

ポケモン開発時点からデザインのバリエーションを広げることを目指していた事実について当時の資料をまとめた記事。

ポケモンの公式アートがデジタル塗りに変わっていった時期の資料をまとめた記事。
動物・生物感や丸さに付随して「マスコット化」というバズワードが、投稿意見で頻出となった件の検証。

デジモンの究極体が人型になる印象が強いので、そこに「デジモンっぽい」があるかもしれないという仮説。、ポケモンのデザインにおける人型タイプ増加の検証記事。

実写版「名探偵ピカチュウ」という極端な事例が公式から提供されたので、それを足場として生物感やリアリティの話題に踏み込んだもの。

ProfessorOK氏の、デジモン/ポケモンの画像の深層学習による分析レポート「最近のポケモンはデジモンっぽいのか、ディープラーニングに聞いてみた」と合わせて。


余談


筆者はBW発売後に、Twitter上でBWのポケモンを描いてくれる協力者を募集して、こんな動画を作った事がある。(当時公式が「ポケモン言えるかなBW」を作っているとは知らなかったので…)

全体の演出と、ラストパートの曲担当と、オノノクスのCGムービーを担当した。


歌詞を組み立てたり、映像編集するのに苦労したので、その過程でイッシュのどのポケモンも好きになれたし、BWの150+数種には思い入れができた。

BWも10年、いろんな意味で感慨深い。

2 件のコメント:

  1. 本当に、感動致しました。
    私もBWが年齢的にも最も自我に影響を受けたシリーズなので、嬉しいです。
    当時、本当に色々ありましたね・・・
    BWに関する時事を全てまとめたらかなり面白いとは思って早数年
    到底完成しそうにないです。

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はじめに

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