2020年5月5日火曜日

ポケモンらしさ-4_デザイン史・赤緑〜RS


ポケモンらしさ」検証のため1996年に時渡りして公式資料を集めた。

前回は、ポケモンのデザインが生まれる会社ゲームフリークがどのように最初の151を生み出したか「赤・緑」発売以前までをまとめた。
次に、現在とは異なるビジュアルがどう変化していったか、プレイヤーにとって影響の大きな表現や環境の"段差"を確認する。


「ポケモンらしさ」比較に使用される画像が後年描かれたものであることは、アンケートの意見分析の際に触れたとおりだ。

まずはゲームフリーク杉森 建氏によるアナログの水彩塗り公式アートから、同氏のデジタル塗りの公式アートに切り替わった時代を順を追って確認しよう。

--コロコロコミックとゲームの普及 --ポケモンカード --「青」と海外版
--ポケモンに組み込まれた生命感
--アニメの影響とピカチュウ版 --金銀開発難航とアニメ事情
--第2世代 金・銀 --マイナーチェンジ版 クリスタル
--公式アート デジタル彩色への変化 --推察:何故デジタル彩色になったのか?
ゲームボーイアドバンス時代の空気感
--ドット絵からイラスト先行のデザインに --デザインの ゲンテンカイキ
--モンスターの先駆者 妖怪 --生命誕生・進化をより意識したモチーフ
--デザインの幅の試行、人型のポケモン --解像度向上と複雑さへのブレーキ
--赤緑〜RS デザイン変遷 まとめ
--概念と化したインドぞう

長い…

※ここでは過去に公開された出典が明示可能な情報しか引用しない。


前回の記事、"赤緑151種の成り立ち"を図示化した。


だいたい中心ほど古いアイデア(ゲームシステム内部番号が若い・赤いものは没案)で、新しいデザイナーを加えながら 大きく「怪獣」→「文化」→「動物」という順に時計回りに渦を巻きながらバリエーションが考案されている。

特に「かわいい」キャラクターを生み出すのに苦心したようだ。ピカチュウ誕生秘話でも書かれているとおり、ピカチュウは「かわいい」ものを目指した結果生まれたデザインで、「ねずみポケモン」という分類・設定がディレクターの田尻氏による後付だったことがわかる。

ゲームシナリオが固まった開発終盤に、ファンによる通称"御三家"と呼ばれる最初に入手できるポケモンの「枠」が生まれている。以降は「枠」の内の増減も確認していこう。



コロコロコミックとゲームの普及


コロコロコミック96年8月号 誰も見たことのないポケモン

「赤・緑」の人気に火を付けたコロコロコミック誌上の広報による所が大きいと思われる。小学館 久保雅一氏のインタビュー

通常プレイでは入手できない「ミュウ」のプレゼント企画の逸話も有名だろう。
96年4月には20名限定に対し7万8千通の応募があった。以後限定配布前提の「幻のポケモン」枠も定着することになる。

96年7月「ポケモン2」と題された続編制作決定がホウオウの旧公式アートと共にコロコロで発表される。この頃にはまだ「金・銀」というバージョン名は決定していなかった。
96年10月にゲームの」版をコロコロ誌上限定発売という企画も行われた。

久保氏の働きかけにより、アニメ化企画も動き出す。
これらの経緯については書籍「ポケモンストーリー」が詳しい。


ポケモンカード


ポケモン キャラクターの強みはメディアミックスにより様々な媒体から演出されたことにある。ポケモンカードの様々なイラストレーターの絵柄で描かれたイラストは、当時ドット絵のみだったゲームの世界観に深い奥行きを与えた。


上図は当時から現在まで多数のカードイラストを手掛けてきた有田満弘氏のアートをピックアップした。ポケモンの"リアリティ"や"生物感"はこういった世界観の拡張で得られてきた面もあるだろう。これは2020年現在でも続いている。
有田: 石原さんと面談した時に、「いま『ポケットモンスター赤・緑』をつくっているのですが、これを元にトレーディングカードゲームを作ることに決めました」とお話を頂いたのがきっかけです。『ポケットモンスター赤・緑』の発売前で、ポケモンのゲームアートや設定がありませんでしたから、モノクロのドット絵で描かれたポケモンたちに、テストとして色を付ける作業から始めました。そのうちにポケモンのゲームアートが揃ってきました。僕は、どうしたらポケモンたちを、ポケモンカードゲームのイラストとして描けるかを、試行錯誤しました。ポケモンたちが意志を持った生き物として、「そこ」に存在している感じを表現したかった。そこで、背景と組み合わせたイラストを編み出したのです。/ポケモンカードゲーム アートコレクション(2016)

マジック・ザ・ギャザリング
"ゲーム"はTVゲームだけではない。今もTRPGのようなアナログゲームは盛んに楽しまれている。そのうちから「マジック・ザ・ギャザリング」が1993年にアメリカで発売され、"トレーディングカードゲーム(TCG)"として発祥する。

ポケモンカードは、日本国内初(1996/10)のTCGとなる。当時クリーチャーズ社長の石原氏がTCGに早く着目し、赤・緑開発中からカード化の企画を並行して進めていた。
後にも、PokemonGOの原点である位置情報ゲームIngressに早くから着目していた(参考記事)ように、プロデューサーとしての石原氏の働きが伺えるだろう。


「青」と海外版


「赤・緑」のグラフィックと出現率を変更したマイナーチェンジ版として同年10月に「青」が発売され、その際、ドット絵グラフィックが更新されている。コロコロ誌上やローソンなどで販売後、一般流通。その翌年5月までには公式ファンブックなどで新しい「公式アート」が全て公開される。便宜上これらを「青版旧公式アート」と呼ぶ。


青のドット絵は、各デザイナーの絵柄の個性はそのままに、別アクションをつけたと言える。初期杉森氏のような6年近く開いた絵柄の差(こちら)はほぼ消えたと思われる。

杉森氏の「青版旧公式アート」は生き生きとした躍動感が特徴だ。線の太さからして、より大きな用紙に描いたとも思われる。2004年の「赤・緑」のリメイクまでこのが公式アートとして使われていく。

「赤緑版」では、説明書や攻略本制作のための急ぎの作業のためか、ドット絵そのままだったり、キャラのデザインを明瞭に伝えるための、言ってみれば棒立ちが多かった。

杉森氏の公式アートはポケモンカードのイラストとしても使われたが、他のイラストレーターたちのイラストの描きこみに刺激を受けた可能性もある。

バンダイのガシャポン、トミー(現タカラトミー)のモンスターコレクション、バンダイのプラコロ

また杉森氏は、商品化向けの設定画の描き起こしもしなければならない立場にあり、ポケモンデザインの構造理解をより深めた上で改めて「青版旧公式アート」の作画に臨めたのかもしれない。
石原:元々ドット絵とイラストだったキャラクターを、バンダイでガシャポンで売り出すときに立体化しなくてはいけなかったんです。そのときに杉森君は山のようにポケモンの後ろ姿を描かされたんですね。  
杉森 : 今まで気分で描いていたポケモンの背中のトゲの本数まで決めなくてはいけないんですから 
石原 : けっこう、ドット絵でごまかしていたのが(笑)、どんどん本物になっていきますから。今度は3Dモデリング(※Nintendo64 ポケモンスタジアム等)されますから、ここまでいくと本当にポケモンがいるようなものです。/絶対ゲームボーイ読本 ポケモンの生みの親座談会(1998)
派生ゲームにおける3Dモデル化の話題は次回以降に後回し。

この「青」のテキストとグラフィックをベースに北米版は「Red/Blue」(1998/09)としてローカライズされる。国外で「赤・緑」のテキストとグラフィックを用いたソフトは発売されていない。グローバル視点だとこちらが「初代ポケモン」のイメージなのだ。

※海外名『Pokémon』の商標に関するよくある誤解
https://www.yutorism.jp/entry/PocketMonster

北米向けのキャラデザインではないと、Nintendo of Americaが当時提案した改修案。
書籍「ポケモンストーリー」によれば、キャラクターデザインやRPGへの馴染みの無さからアメリカでのヒットは不安視されていたが、国内のアニメ人気の勢いに後押しされ動き出すことに。北米でのアニメ放映の後に発売することで北米版「Red/Blue」発売は成功したという。

海外市場での成功は、人型ポケモンの肌の色配慮など様々な影響が察せられるが、どこまでが意図されたものなのか不明なので憶測は割愛。作品の影響力と共に表現に課せられた制限も膨らんだであろう。


後に任天堂社長となる岩田聡氏の協力もこのあたりから始まる。

岩田 当時、わたしは任天堂の人ではなくてHAL研究所の社長だったのですが、同時にクリーチャーズの役員でもあったご縁があって『赤・緑』の海外版のローカライズがどうやったらできるのか、その分析の仕事に関わることになったんですね。 
そこで『赤・緑』のプログラムソースをあずかって、それを読み込むようなことをして、「こうすればローカライズできますよ」と 任天堂の担当部門につなぐようなことをやりました。 
森本 戦闘プログラムはとても長い時間をかけて、僕がつくったんです。ところが、岩田さんはわずか1週間くらいで移植して、それがもう動いてるという話を聞いてですね・・・どんな社長なんだって(笑)。一同(笑)/社長が訊くHGSS


ポケモンに組み込まれた生命感


デザインの話から外れるが触れておきたい話題。
田尻>> 『ポケットモンスター』では、ポケモン一体一体の情報量がかなり多いんですよ。この先いろんな続編が作られたときに、たとえばピカチュウの色が変わるとか、耳の形が変わるとかでもいいんだけど、そういうことが可能なように、大きなデータの配列のなかに空白の部分も残してあるんです。 
それって、じつは遺伝子の並び方によく似てるんですね。いまはまったく意味をなさないデータの羅列と意味を持ってるデータの羅列。 
だけど、将来ポケモンに新しい属性ができたときに、空白になって通信交換してるところがそれを判定する場所として使われたりする。/スペシャル対談 田尻智さんvs石原恒和さん後編
「赤・緑」には、第2世代の「金・銀」で初登場した珍しい色違い性別の概念が、まだなかった。にも関わらず、「赤・緑」から「金・銀」にポケモンを送った際に、一定の性別が決まっていたり、色違いであることが判明する場合がある。金銀のそうした機能が決まる前から、ポケモンの個体ごとに隠されたパラメーター値が存在していたという話だ。

田尻氏の意図した「ポケモンの遺伝子のようなデータ配列」のひとつは、戦闘ステータスを決定する内部的な数値、通称"個体値"のことを指していると思われる。第1世代から捕まえる度に能力が少しずつ異なる個体差を持たせることで「生物的リアリティ」を演出しようというゲームデザインだったのだ。(第1世代の持ち物に関しては捕獲率の値を使用)

第1世代の「通信対戦」機能の実装が確定したのは 締め切り2週間前とのこと(書籍「遊びの世界基準を塗り替えるクリエイティブ集団 ゲームフリーク」など)で、詰めきれられなかった部分もあるだろう。PvP・対人戦向けの育成のシビアな数値調整の前には 性別や色違いが個体値依存である仕様はかみ合わせが悪く、第3世代以降は個体値に依存しない別の値による判定となった。


アニメの影響とピカチュウ版


TVアニメの国内放送は1997年4月スタートで人気を博し、ブームの中心となる。
アニメのストーリー展開に沿ってシナリオが調整されたゲーム本篇第4作、「ピカチュウ」バージョンの発売は1998年9月。ドット絵グラフィックも全て描き直されている


青版ドット絵と比較すると、ゲームボーイの4色 白  薄  濃  黒 を使った細かいグラデーション表現が廃され、アニメ塗り(ベタ・影・ハイライト)に近い表現が特徴。絵柄もデザイナーごとの個性より、"アニメ設定画"に寄せたものになっている。

今現在のポケモングラフィックの描き方に大きく近づいたターニングポイントだろう。
ポケモンらしさ」のイメージがアニメによって上書きされつつあるとも言える。

当時のゲームフリークのスタッフのインタビュー。
森本 : 僕らスタッフも、『ポケモン』を作っているときは、自分で勝手にポケモンの動きを想像しながら作っていたんです。スタッフはそれぞれ自分なりのポケモン像があって、勝手に解釈しながらやっていたんです。 
だから統一したイメージっていうのはなかったんです。だからアニメを見たときに「ああ、こんな風に動き回るのか」ってちょっとした感激がありました。 
太田 : 作っている僕らがビックリすることが多かったですよね。戦闘のプログラミングを担当しているのに、アニメで戦っているのを見て感心したりして(笑) /書籍「絶対ゲームボーイ読本」(1998) 

デザイナーが後年を振り返った対談。

杉森 そうですね。まずドット絵を基に僕が描いたイラストでデザインをもう一度見直したっていうのもあるかもしれないですし、そのイラストを描いた後にアニメが始まったのも大きかったんだと思います。 
藤原 たしかに、アニメに寄せていくっていうのはあったかもね。 
杉森 あとは にしださんや藤原さんの絵柄の変化もあったと思うんですね。/書籍『EVs』特別鼎談 

アニメ化に喜び、多くのユーザーが抱き始めたアニメ版のイメージに寄せつつも、一方で杉森氏は原作ゲームサイドとして対抗心を燃やしていたことが伺えるエピソードも。
ポケモンカード マチスのピカチュウ(1998)や 海外版Yellow(1999) からもワルさを感じる 
遠藤氏:田尻くんは、CEDECに出てくれたときですよね。杉森くんはもっと前だな…… 
確かそのとき、ちょうどアニメが始まって、あのピカチュウを見て「あんなのピカチュウじゃねえや」と言って、こう、もっと目がキリっとしたワルい雰囲気のピカチュウを描いてもらったんですよ。 
杉森氏:……え、そんなこと、ありましたっけ? 
一同:(笑) 
遠藤氏:あった、あった。「絶対に、ゲームのピカチュウのほうがカッコいいよ!」と言って、描いてもらったんですよ(笑)。僕は主人公キャラが好きな人間なんで、ピカチュウには思い入れがあったんですよ。 
杉森氏:ありがとうございます(笑)。「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?「ゲームの企画書」第一回


アニメとゲームの表現の違いは アニメの初期の「シリーズ構成(全体脚本の骨組みを決める役目)」を担当した首藤剛志氏のコラムが詳しい。

とりあえず、僕は『ポケモン』のゲームに挑戦した。(中略) 
ゲームをやり終えた他の方達から感想を聞いたが、それぞれ楽しんだらしい。しかし、楽しみどころが様々である。つまり、ゲームをする人それぞれにそれぞれのストーリーができているのである。 
ただ単に、僕が1人でゲームを楽しむだけならそれでもいいが、アニメ化を意識してゲームをするとなると違う。人それぞれの楽しみ方があるものを、ひとつのストーリーとして、アニメ化するのはかなり難しい感じがした。/WEBアニメスタイル シナリオえーだば だれでもできる脚本術 第141回
基本、ドラマが成立するのは人間である。だから、ドラマを理解し感情移入できるのは人間であり、人間はそのドラマに喜怒哀楽する。だから、動物や架空の生き物でドラマを成立させるには、動物を人間のように描かなければならない。つまり擬人化である。/WEBアニメスタイル シナリオえーだば だれでもできる脚本術 第210回

ボールに入らないピカチュウというアニメ主人公たちの存在は「ピカチュウ」版としてゲームの中で消化されることにより、"連れ歩き" "なつき度"など、ゲームのシステムやシナリオにも大きく影響を与えていく。


カラー液晶となったGAMEBOY COLOR発売前だったため国内ピカチュウ版はドット絵のカラーパレットが単色系統だったが、海外版YellowはCOLORに対応し、GAMEBOY COLORで遊ぶと少し豊かな配色になっている。


金銀開発難航とアニメ事情


「ポケモン2」の制作決定発表時に公開されたホウオウは、アニメの第1話でも登場。次にアニメに先行登場した新種は、トゲピーであった。

アニメ#58「もえろ!グレンジム!」よりカスミに抱えられるトゲピー
TV登場が北米でアニメが放映開始したタイミングと近く『海外でカスミのへそ出しルックが規制対象となりトゲピーで隠した』という憶測を呼び、ウワサが広まっているが(カスミのヘソを検証した方の記事)、実際の所は予定されていたスケジュールのズレによる偶然だろう。


♂♀の性別、ポケモンのタマゴの存在は1997年時点でも語られており(ゲーム会議Vol.9)、「金・銀」での新たな要素として目玉であった。タマゴから孵ることをデザインに落とし込んだ姿をしているトゲピーが、仮に「発売延期」や「放送休止」がなければ、ゲーム発売と同時期にアニメでも活躍するというメディアミックス展開の要だったと推測するのに、無理のないスケジュールなことを確認した(上図)。

アニメはTV映像の技術的問題による放送事故という未曾有の事態により、やむを得ず放送休止するに至ったが、ゲームフリークの方は…それらとは無関係に苦しんでいた。

ゲームボーイカラー
Q 今回の金・銀バージョンは予定よりもずいぶん長く時間がかかりましたが、いちばん大変だったのはどこですか?  
増田 それは…戦闘じゃないですか?  
森本 (苦笑いしながら)そうですねえ。戦闘は、わざの種類もかなり増えましたから、そのバグ (プログラムのミス)をとるだけで半年以上かかっていますね。 
それと、今回は作っている途中でゲームボーイのハードが、どんどん進化していったんですよ。金・銀を作りはじめたときは、まだカラーでもなかったし、ポケットプリンタ赤外線通信もなかった。 
そういう新しいハードに対応していくのにも、けっこう時間がかかりましたね。/攻略本『金銀ポケモン図鑑 任天堂公式ガイドブック』(2000)


既に「金・銀」発売予定は97年夏→冬→春とずるずると遅れていた(書籍「ゲーム会議vol.9」など)。キャラクターの増加による膨大なデータ管理、新ハード対応に伴う仕様変更など、様々な事情を抱えていたようである。

岩田 当時はとにかく『金・銀』の開発に影響を与えないようにということが 任天堂のグループ全体ですごく大事なことだと感じていましたから、わたしも自然と『ポケモン』をつくる側に加わることになったんでしょうけどね。
森本 しかも岩田さんに、ポケモンのグラフィックを詰め込むツールも…。
岩田 圧縮ツールですね。
森本 つくっていただきました。
岩田 はい(笑)。石原さんから、森本さんたちがすごく悩んでいるという話を聞いたので。
森本 そこで僕らも調子に乗って「ここがちょっとうまくいかないんで、修正をお願いします」みたいなことも頼んでましたよね、社長さんに、図々しく(笑)。
岩田 何でもしてましたから(笑)。
石原 社長にしておくのは、もったいないよね(笑)。
一同(笑)
/社長が訊くHGSS


アニメ劇場版「ミュウツーの逆襲」(1998年7月公開)には、その前年に公開済みの新ポケモン・ドンファン、同時上映の短編映画「ピカチュウのなつやすみ」にはマリルブルーがゲーム「金・銀」より先行して登場。ゲーム新作の期待値との相乗効果を狙ったメディア展開は以降も続いていく。

ゲームの完成が遅れているにも関わらず、劇場版の次作は翌年夏公開に合わせるために動き出さなければならず、脚本の首藤氏はやむを得ず「オリジナルポケモンX」を提案する。

最終ポスターと コロコロ99年1月号時点のポスター
ポケモン映画『ミュウツーの逆襲』の予想以上のヒットで、2作目は当然ヒットすることが期待されて作られることになってしまった。 そして、生命の源という仮説を持つ深層海流を象徴する映画独自のポケモンX(エックス)という当初ゲームにいなかった……後にルギアという名前がつけられる……を、登場させることも了解された。/シナリオえーだば創作術 第187回 ルギア黙示録

ルギアはゲーム由来ではなく、アニメ側発のポケモンということになる。「幻のポケモンX」と仮称されたキャラクターを最終的なルギアのデザインを作ったのがどこか、明確なソースは見当たらなかった。

金銀のエンドディングスタッフロールと アニメ金銀編のエンディングクレジット
劇場版「幻のポケモン ルギア爆誕」(1999年7月17日公開)のキャラクター原案のクレジットはゲーム「赤・緑」の4名、TVでは1999年10月14日 無印金銀編 #01「ワカバタウン!はじまりをつげるかぜがふくまち!」以降に、ゲーム「金・銀」のポケモンデザインの8名がクレジットされるようになる。

当時ポケモンのコミカライズ(ゴールデン・ボーイズ)もされていた漫画家・斉藤むねお氏は杉森氏と交友がありライコウ・エンテイ・スイクンのデザインを担当と知られている。/伝説ポケモンのイラストを手がける斉藤むねお、キャラデザ講座開講!
吉田宏信氏は おしえテレビのおにいさんとして知られている。

金銀で加わった新デザイナーの名前はそれ以前にクレジットされたことはなく、ゲーム側にアニメスタッフの名前が加わっているような事はなさそうだ。トゲピー、ルギア共に完全にゲームフリーク側で姿をデザインしたことになるだろう。名称については映画タイトル名にも直結するため、複数社跨いで検討されたと想像される。


YouTubeに投稿された「マスダの部屋」 第七回によると 増田氏は担当する別作品(クリックメディック)完成後、99年頭に「金・銀」の開発に合流してから、京都への社員旅行を経て関西をモチーフにした「ジョウト地方」という舞台が決まったという。

97年5月開発中の構想

それまで開発していた(全国制覇なノリの)内容を諦め、99年1月以降に改めて舞台が決まった(関西に絞った)というのは、タイミング的にも「ルギア」を入れ込むシナリオに対応するためなのではないかと推測する。完成を遅らせる判断がより開発を困難にしていく、止められないメディアミックスの流れは確かにあっただろう。

後年 当時を振り返った増田氏はこう漏らしていた。
今年の映画、みなさん観ましたか?<中略>こういう良い感じで「ルカリオ」が育ってくれると、ゲームに入れるときに苦労しそうですが、(ルギアはきつかったですが、、、/増田部長のめざめるパワー 第46回(2005)

増田氏は「金・銀」ではサブディレクター、クリスタル」ではディレクターを務めている。田尻氏からバトンを受け、その後「ルビー・サファイア」から「X・Y」まで10数年、本篇ゲームシリーズのディレクターを続けることになる。



第2世代 金・銀


数種の例外を除き、金と銀でそれぞれポケモンのグラフィックが別に描き起こされている。

ゲームボーイカラー対応となり、最大56色表示可能となった。ただし「ゲームボーイ&ゲームボーイカラー共通ソフト」のため、ゲームボーイの白黒でも表示できる必要がある。

ゲームボーイでは4階調 白  薄  濃  黒 、カラーでは 白  赤    黒 のように塗り分け可能だ。そのためフシギバナの体と花のように、基本色を複数塗り分けられる反面、暗い赤や暗い緑のような「影色」は省かれ、白黒含めた4色をフル活用した「点描」表現で陰影をつけている。


ピカ版に比べると、グラフィッカーごとの絵柄の個性がまた出てきたようにも思える。ピカチュウに関してはアニメに寄せた「ピカチュウ版」よりも首が短く、ゲーム公式アートに体型を寄せている。
ドット絵のハイライト(明るく白飛びする部分)の具合が、杉森氏の旧公式アートの塗りに近いともいえる。

にしだ 『金・銀』の当時もモノクロのドットを意識して作っていたと思うので、白と黒で見せた時のことしか考えていなかったですね。 
杉森 まだ『金・銀』の頃は色のついたデザインで作ってないですよね。 
にしだ そうですね。モノクロでわかるっていうことだけを意識していたんです。なので黄色(※ブラッキーの配色)は意識していなくて、細かい所のカラーリングは杉森さんでしたね 。 
杉森 カラーリングはそうだったかもね。 
にしだ 見たときに、パキっとしてわかりやすいっていう記号的な部分の色分けでしか見ていなかったんじゃなかったかな。 
杉森 あの当時は、手っ取り早いのもあって、まだドットで直に打って、直に修正していたんですよね。/書籍『EVs』特別鼎談

また、アニメ化を経た後の作品ならではのアイディア、デザインもあるようだ。
杉森 あと新ポケモンは、いずれアニメにも登場するという前提で作りましたから、回転したり変形したりというギミックを仕込んだものも何体かいます。たとえばヒノアラシはバトルのときだけ体から炎を出すとか。動いてみてはじめてわかる、アニメならではの仕掛けですね。/攻略本『金銀ポケモンずかん任天堂公式ガイドブック』(2000)
アニメにも登場するという前提」で生まれたアイデアもあるが、負の側面もあったようだ。後ほどインタビューを引用する。


冒頭のデザイン系統に加えてみると以下のようになる。

左上 擬人化の欄は、元の動物の骨格を無視した「人型」アレンジの増加を確認するために設けてある。
基準についても別の機会に改めて考察したい。


タマゴのゲームシステムと共に 既存種の進化前「ベイビィポケモン(ポケモンカード用語)」が増えたのが特徴だ。製品版では”妖精”と”人型”にのみ追加されている。


当時の公式アートもいくつか確認してみよう。
金銀の攻略本では、第1世代(上段中段)のポケモンたちの描き直しはない。基本青版が使われるが、ピカチュウだけ赤緑版が攻略本で使われていた。青版が縦長すぎるからだろうか。
金銀の新種ポケモンの旧公式アートは、青版旧公式アートのように洗練された線描画を感じる。一方で、ポージングは青版ほど躍動感は抑えられ、赤緑版のようなおとなしめの基本ポーズである。(主観)

キャラのデザインを伝える目的で、初めて描くことになる公式アート第一弾に比べて、描き慣れてからの二度目の公式アートの方が、ポージングや構図で遊びやすいだろう経験則)

これは後の世代ほど二度目のイラストが描かれる機会がなくイラストだけを見た場合、なんらかの差異を感じさせてしまう一因なのではないか(仮説)。第1世代、第2世代のポケモンたちは、この後デジタル彩色版の公式アートとして、再び描かれるチャンスが待っている。


マイナーチェンジ版 クリスタル

こいつ動くぞ!

増田氏がディレクターを継いだマイナーチェンジ版「クリスタル」(2000/12)ではグラフィックがエンカウント時の最初だけ動くようになった。

第2世代のポケモンのクリスタル・金・銀のドット絵を比較。それぞれの差分が浮かび上がっている。
「クリスタル」のドット絵は「金・銀」いずれかのグラフィックを基に、部分的に数コマ描き足して動きをつけているが、アニメーション以外のデザイン変更を伴う加筆も多い



「クリスタル」ドット絵に対する大きな修正差分は、前回の「赤・緑」同様、杉森氏が描いた金銀旧公式アートに絵柄を寄せる作業によるものであろう。

特に「金・銀」のグラフィックが共通で「クリスタル」では大きく修正が入っているライコウ・エンテイのようないくつかのポケモンは、「金・銀」開発時点でギリギリまでデザインが難航していたのではないだろうか。

ちなみに。

クリスタル」のタイトルは、無線通信やコンピュータに欠かせない電子部品、"水晶振動子(crystal unit)"に由来する。というのも、モバイルシステムGB対応ソフトで、当時ゲームボーイカラーを携帯電話に接続すると、遠隔通信やネット接続を可能にした当時画期的なシステムに対応していたからだ。

ネット接続1分10円、バトルタワー1回10円、ポケモンニュース毎月1回100円、それに携帯電話の通話料が加算される。有料コンテンツの課金額に1ヶ月1万円天井が設けられている安心設定。

まだこの時代スマホもwifiも無い。
ガラケーでさえ、ほぼゲームはできなかった。

「金・銀」発売延期によって発生したTVアニメオリジナル展開「オレンジリーグ編」で『GSボール』が登場したが、ゲーム「クリスタル」のモバイルシステムGBによって入手可能となった。2018 年に配信された3DSバーチャルコンソールの「クリスタル」ではモバイルシステムGB無しに『GSボール』を入手可能。


攻略本で使われる公式アートにもいくつか差し替えがある。伝説ポケモンは線の太さが異なり、「金・銀」の時より大きなサイズで描き直したと思われる。

第1世代は青版級公式アートが使われている中、なぜかミュウとタッツーは新規イラストに差し替わっている。これらはヒレの数や足先の色などのデザインの修正が必要になったためと思われる。

後年この2種は線画そのまま、赤・緑リメイクの際に、デジタル彩色に差し替わっている。

2020年現在、デンリュウは旧公式アートの方が、まだデジタル彩色の公式アートより使用歴が長い!

アナログ彩色とデジタル彩色、両方のパターンが同じ線画で存在するタッツーとミュウを見れば、公式アートの塗りが変わった事による印象値の変化が確認できる。



公式アート デジタル彩色への変化


第3世代以降、公式アートの塗りが変わったことが、当時言葉で言い表せない違和感だった人も多いだろう。デザインした人が変わってしまったのか、絵柄が変わったのか。塗りの表現のアナログ・デジタルの違いを言葉にできるまで知識と観察を要する

(左)新旧アートが混在するルビー・サファイアの攻略本  (右)プラチナまで旧公式アートなデンリュウ
躍動感あふれる青版公式アートと、新公式アートの基本ポーズの差は違和感をさらに強調して見える。

全てデジタル塗り公式アートに差し替わった現在、正確なニュアンスとしてその当時の違和感を思い出すことは困難だろう。その難しさは、前々回のアンケート解析に一部誤解として現れているとおりである。

(左)1998 金銀告知  (右)2000 クリスタル

実は、杉森氏の描くポケモンの公式アートがデジタル彩色に切り替わる前に、金銀の主人公たち人物イラストがデジタル彩色になっている。クリスタル版ではアナログ彩色のイラストも描き起こされている。


ポケモンジム第1弾「ニビシティジム タケシ」(1998)

ポケモンカードでもデジタル彩色のイラストを複数描いている。

ポケモンの公式アートがデジタル化したのは、あくまで"色塗り"の話で、杉森氏の線画はアナログで作画されている。「X・Y(2013)」までの公式アートに関しては以下のように語られている。
ーポケモンの公式イラストは、アート紙のような紙に水彩絵の具で描かれていますよね。
杉森 そうです。でも、いまは輪郭線だけ紙で描いて、スキャナーで撮り込んでからPCで色塗りをしてます。線だけは、いまだに紙にGペンで描いてるんですよ。 
杉森 紙にペンで描いた線って、拡大するとガビガビしてるじゃないですか。あれが好きなんですよ。そういう、ちょっと「線フェチ」みたいなと ころがあって。/書籍『杉森建の仕事』(2014)

公式アートとは違うが、杉森氏の作画工程がゲームフリーク公式チャンネルに投稿されている。

ゲームのみのプレイヤーで、失われた"ポケモンらしさ"の正体が「アナログ着彩公式アートの魅力」だったという人もいるかもしれない。
10年かけて差し替わり、10年前に既に終わった、大きな「イメージの摩擦」だった。



推察:何故デジタル彩色になったのか?


公式アートのアナログ・水彩塗りは、主観ながら確かに魅力的だった。
偶発的なグラデーションの塗りのムラを利用した彩色は、デジタル彩色以上の情報量を持っていると(OK教授の検証待ち)思われるが、それ以上にデジタルへ代替するメリットがあったと考える。

修正が容易に。
 特に水彩は下地が透けるので、作業中のミスや色の変更があった場合、最初から塗り直しになる。

分担作業が可能に。
これは言及のない憶測ではあるが、職人芸に近い水彩塗りでは不可能な点。最終的な塗りの仕上げは杉森氏だとしても、効率化のため、アシスタントが原稿スキャンや下地の色を塗るなどの分業はあり得るだろう。

デザインの監修が正確かつ容易に
商品化や派生作品に対して、アナログ彩色の色味や色面の境界の曖昧さは、監修の難易度を上げる。商品の監修を株式会社ポケモンなど、デザインした本人達でない人間が行う場合、その第三者が正しく原作の色味を理解できる必要がでてくる。
アニメの色設定や商品開発もその方がありがたいし、ブレずに伝えられることは原作側も嬉しいはず。

筆者によるそれぞれの模倣 キャラのメインカラーと塗り分け箇所はデジタルの方が把握しやすい。

メインカラーとは、フィギュアを塗る絵の具の色をどれにするか、と言い換えることもできる。影や光沢は照明が当たれば勝手にできるものだ。
デザインが「人形っぽくなった」という意見のひとつは、デジタル彩色のそのような印象からくるのではないだろうか。

いずれにしろ「アナログの方が味がある」という好みを貫くよりも、デジタル彩色に切り替えてしまう方が、メリットが大きくなってしまった。天秤にかけた議論の末に判断が下されたタイミングなのだろう。

しかしながら杉森氏自身もアナログの描き味を趣向としており、線画はアナログの手描きを貫いていた。その差異はよほど観察しなければ気付かない。「アナログ・デジタル」と単純に断じてしまうこともできないだろう。

解析で協力頂いているOK教授が、機械学習による公式アートのデジタル塗り→アナログ塗り変換を試みていたので、報告を楽しみに待とう。
果たして「機械」によるアナログ塗り再現から『暖かみ』が感じられるだろうか。


ゲームボーイアドバンス時代の空気感


第3世代からは新型ゲームボーイアドバンス(以下GBA)にハードが移行する。従来のゲームボーイシリーズと通信互換性がなく、前作まで育てたポケモンたちは引き継げない。
ポケモンにおける「互換切り」という概念はここから来ている。


デザインの話ではないが「先入観」を形成する時代背景を振り返ってみよう。

2002年11月にルビー・サファイア(以下RS)が発売。赤緑発売から6年経過している。当時の小学校低学年が中学生になるほどの年月だ。
プレイヤー自身の環境の変化もあり、引退寄りクラスタへ移行しやすいタイミングだったのではないだろうか。(※「アンケート」の回答に一定の傾向が見られた最新世代をプレイしていないグループ)

筆者も発売日時点ではそのうちの1人であった。以下のような空気感を憶えている。
(増田氏) しかし『ポケットモンスター 金・銀』の後は、逆に「『ポケモン』は終わった」「もうダウントレンドだ」と世間から言われるようになりました。すごく苦しかったです。/ゲームフリーク公式サイト ゲームフリークDNA(2019)  

「金・銀」が発売したあとも「結晶塔の帝王ENTEI」「セレビィ時を超えた遭遇」「水の都の護神ラティアスとラティオス」と劇場版は毎年が続いたが、観客動員数推移を見ても分かる通り、コンテンツ全体としての注目度は下がっていたと言える。
(賢明な方は、実際に感じる作品の面白さと興収がイコールでないことはご承知だろう)

当時のゲーム業界の空気感・まんねりの印象(参考:ゲーム離れは本当か?)ともリンクする。
任天堂が岩田聡氏を社長に指名し「ゲーム人口の拡大」を目指すのも2002年以降のこと。

だが、RS発売の翌年の劇場版「七夜の願い星ジラーチ」は前売り券に幻のポケモンの引換券が付くと、観客動員数はV字回復を見せる。(賢明な方は、実際に感じる作品の面白さと興収がイコールでないことはご承知だろう) ゲーム本篇はプレイされているのだ。

(増田氏) ところが、2002年にゲームボーイアドバンス初のポケモンシリーズとして、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』が、想定以上にヒットしたのです。ハードの販売台数に対するソフトの販売比率がものすごく高かった。/ゲームフリーク公式サイト ゲームフリークDNA(2019) 

RSがゲームボーイアドバンスというハードの売上を牽引するほどのソフトであったことは確かだ。2002年末の販売台数本数のグラフ 初代大ブームという「化けの皮」が剥がれたあとのゲーム本来の地力ともとれる。

ちなみに、コンテンツから離れ気味だった筆者がRSを手にとったのは授業中隣の席の奴が教科書に隠してルビーしてた」のを横目でみていたからだ。投げたモンスターボールの揺れを待つ緊張感と、捕獲成功の瞬間の興奮は、変わらない「ポケモンそのもの」だった。

というのは、個人的な一例にすぎないが、インターネットによる他人の意見を目にする機会も乏しい当時、新しいキャラクターデザインに対する評価は、観る者の交友関係や環境が構築する「先入観」でガラっと変わってしまうだろう。

それも RSから新しくプレイヤーとなる若年層には関係のない話だ。


ドット絵からイラスト先行のデザインに


RSのパッケージと御三家
キャラクターデザインのリーダーは杉森氏で変わりはないが、ここでの変化として、デザイン過程がドット絵先行でなくなったことが挙げられる。発想そのものに大きく影響がありそうだ。

金銀までのは新しいポケモンは、各デザイナーがドット絵の見栄えで姿を検討し、その後杉森氏が公式アートを描く際に絵柄が統一されてきた。その後、クリスタル版のドット絵など後発作品のソフトでは公式アートにデザインを寄せるための修正があったのは確認してきたとおりだ。

杉森 イラストが先行になったのはゲームボーイアドバンスの『ポケットモンスター ルビー・サファイア』くらいですね。それ以前からアニメやフィギュアを作るときに、このキャラクターの背中はどうなっているのかと聞かれた際、ドットの資料くらいしかないと自分たちが苦労するので少しずつ描くようにはなっていたんです。/書籍『EVs』特別鼎談

ゲーム画面表示上での見栄えを直接コントロールできるとはいえ、イラストに描き起こした後に、デザインの細部にブレが出てくることは極力避けたいだろう。GBA開発を機に、公式アートの解像度での見え方を意識してのキャラクターデザインにシフトと思われる。

逆に、RS開発時、社内でドット絵だけでポケモンデザインコンテストも試みとしてあったが、うまくいかなかったと(金銀からポケモンデザインに参加した)吉田宏信氏出演の動画で語られている。

御三家はガラっと変化。序盤虫・序盤鳥と呼ばれる枠は既存デザインの踏襲が強く見られる。
(※20/05/06 修正 画像を正しいものに修正)

デザインの ゲンテンカイキ


アニメにも登場するという前提」に対する忖度から「金・銀」のキャラクターデザインの幅にブレーキがかかっていたとRS当時のインタビューで振り返られていた。

杉森 制約というか、いろいろ気を使ってしまったんですね。「このようなキャラクターじゃないとアニメでは描きにくいだろう」みたいなことを気にして描くわけです。だからアニメのスタッフや立体をやってる人には悪いんですけど、今作ではそのようなことをあんまり考えないでやろうと(笑)。
増田 それでも、細かい線は少な目にしようとか。 
杉森 それは、商品化とかは別にして、単純に、ごちゃごちゃしてるとわかりにくくなって印象が弱くなるからというところはもちろん気をつけてました。 
でも、こう描いた方がアニメ的にはいいだろうということはあんまりしないで、まあ伸び伸びというと語弊がありますけど(笑)、その意味でも初心にかえって描いたところはありますね。 
増田「これ、どうやったら立体になるんだ?やってみてよ」くらいの勢いで(笑)。/NintendoDream vol.84 2003年02月

古参アニメーターでも悲鳴をあげる初代のキャラクターデザインの例。

細かい定義やニュアンスはファンからは計り知れないが、「赤・緑」の開発時のように原作者サイドで「ゲームに対する」純粋なキャラクター創作ができるように心がけたのだろう。制作環境の変化に対応し続けた「金・銀」に対して、今回はゲーム本篇としての原点回帰を目指したタイトルと言える。

増田 (前略)グラフィックに関して言えば、「ポケモン」を知っててポケモンを描こう とすると、どんどんずれた方向に行ってしまうんです。でも、かつて「赤」をつくったときは、怪獣みたいなものからポケモンをクリエイトしていくようなところがあったわけです。だから、パッケージのグラードンやカイオーガのような、怪獣や恐竜のようなおもしろさを、今作ではどんどん出していこうと意識しているんですね/NintendoDream vol.84 2003年02月

第3世代をデザイン系統に加えるとこのようになる。


ただし、ルビー・サファイアのに登場するポケモン、「ホウエン図鑑」の202種を並べると以下のようになる。

動物だと奇蹄目鋏脚類、人型だとエレブーのようなポジション(?)が今回は不在。

初心に立ち戻ったというのがよくわかる、バリエーションのバランスだ。新規デザインモチーフの偏りは、再登場する過去のポケモンによって補われている。これは、全国図鑑の並びで見てしまいがちな現在ほど、見落としがちな点だろう。

正確には、既にいるポケモンは続投の選択肢があり、わざわざ似たデザインを再生産する必要はないとも言える。さらにバリエーションを増やそうという意識もあったようだ。

杉森 前作同様にかわいいやつ、不気味なやつ、カッコイイやつ。たくさんの新ポケモンをデザインしました。また、「えっ、これがポケモン?」とびっくりしてしまうような姿の新キャラクターもいますので、新作ならではの新鮮さも感じてもらえると思います。 ぜひ全部のポケモンをつかまえてね!/NOM 2002/11
「えっ、これがポケモン?」と言われることうけあい


モンスターの先駆者 妖怪


河童や天狗などはっきりとした妖怪モチーフが急増したのはこの世代の特徴でもある。初代の「ウルトラ怪獣」のような、「不気味なモンスター」オマージュだろうか。

妖怪画はクリエイティブコモンズ

初代では河童は"作中にも存在するプレイヤーの知る妖怪伝承"としてゲーム世界観に登場していた。
ゴルダック ゆうがた みずうみの ほとりを かれいに およぐ すがたを カッパと まちがえる ひとがいる。/ポケットモンスター青 
今作ではカッパの名を出さずに河童のようなポケモンとして登場させている。
ハスブレロ ゆうぐれになると かつどうする やこうせい。つりびとを みかけると すいちゅうから いとを ひっぱり ジャマをしては よろこんでいる。/ポケットモンスタールビー

初代ポケモンの構造がそもそも「ゲゲゲの鬼太郎」のようなフランチャイズとしての妖怪に近かった(参考 the Newyorkerで英語圏向けに妖怪の説明に用いられるポケモン)ので、相性はよかったと思われる。


生命誕生・進化をより意識したモチーフ


今作で特筆すべきは、「生物進化」が強く意識されている点だ。魚類から四肢動物へとつなぐ肉鰭類シーラカンス、陸棲から海棲に戻った哺乳類クジラのモチーフを入れた上に、ゲームシナリオに組み込んでいる。生物・非生物の境目にあるウイルスとDNAというモチーフも示唆的だ。過去の記事でも考察している。

RSからポケモンを「生物として再定義」しようとしていたのかもしれない。

あ、ちなみに、映画の冒頭のミュウの系統図のようなもの。
あれ、GFのダイヤモンド&パール用の極秘資料が元です。(笑)
/増田部長のめざめるパワー 第46回(2005)

次世代のダイヤモンド・パールに向けて ポケモンが形態を変化させる「進化システム」とは異なる、種としての系統樹を用意
していたことが判明している。この系統図は作品中で明言されたことはないが、ポケモンの図鑑説明文で「共通の 祖先を もつ」などの表現が用いられるようになる。


系統樹描いてみたというファンによる考察も紹介したい。こちらはミュウの「あらゆる わざが つかえるという」「ポケモンの せんぞ ではないか」に通ずる、ゲーム中の習得ワザから組み立てた系統樹。

ちなみに、本記事中のデザイン系統は、アイディアの連続性を追う(意訳含む)ものであって、ゲーム作中のポケモンたちの進化系統とはなんら関係がない。ただ、キャラクターのバリエーションを追うと、自然とゲーム作中の繁殖に関わるパラメータ"タマゴグループ"にだいたいそっている。

特にタマゴグループに沿わないのは、「映画先行」枠、「御三家」という8世代継続されている枠、
そして「擬人化」とした動物の骨格から大きく離れた人型デザインだ。

「ポケモンらしさアンケート」の結果から注目点として意識したため設置した。


デザインの幅の試行、人型のポケモン


過去のインタビューに "人型"デザインへの言及が見られた。RSでは意図的に人型デザインを試したのだという。バシャーモはTVアニメでも先行登場している。

一今回新ポケモンをつくるにあたって、意識したことはありますか? 
杉森 今回はポケモンの幅がどこまで広いのか、どこまでが許されるのかは試そうと考えてまして、…それでいちばん最初にやったのがバシャーモだったんです。あのような、あからさまな人型のポケモンが許されるのかなと思って、あえて試してみたところがありましたね。/NintendoDream vol.84 2003年02月

杉森氏自身、エビワラーやルージュラなどを描いてきた上での発言なので、ここでいう「ポケモンの幅」は、動物モチーフからの擬人化方面のことを指しているだろう。「擬人化」デザインの増減は後の世代でも継続して注目していく。


先述した「アニメでは描きにくい」に遠慮してしまったこと、かわいいデザインの増加、ベイビィポケモンなどが影響してか金銀では『幼児化』のような反応をうけたともいう。

杉森 そうですね。かわいいものが多かったし、それで幼児化したようなことも言われたりもしましたんで、今作ではモンスターのカッコよさみたいな原点に戻るということを、 テーマのひとつにしていました。それに加えて、今までのカテゴリーにはないポケモンも新たに提案していこうということが2大テーマとしてあったわけです。
/NintendoDream vol.84 2003年02月

ポケモンじゃない…というのは「金銀」の時点で既に散々言われてきたようだ。

杉森
 ここ何年かの間で
ポケモンっぽいイメージができあがっちゃったので、そこからちょっとでもはずれると「これはポケモンじゃない」というような反発が強くなっていくような傾向があったと思うんです。
ーでも、作り手としてはそうじゃないと。 
杉森 極端ないい方をすると、「ポケモン」に出てればポケモンなんですよね(笑) だから、「ぼくらが考えるポケモンはこうです」という感じです。
/NintendoDream vol.84 2003年02月 

デザインの幅に関しては、「えっ、これがポケモン?」と言わせるものを意図的に狙って開拓し続けているようだ。バリエーション・ポケモーションである。

マンネリを感じさせるネタ切れ・特定のカテゴリーへの偏りが存在するか、あればどの程度なのかを 継続して確認していく。


解像度向上と複雑さへのブレーキ


「ポケモンらしさ」について、複雑さに言及しているインタビューもある。

Q2
アドバンスでの初めてのポケモンのゲームソフトで、色数も増えました。デザイン作業をする上で、これまでと変わったところはありましたか?
 
杉森 今までのゲームボーイでは不可能だった公式イラストやTVアニメの絵に近い繊細な表現ができるようになりました。一方で、ポケモンらしくない複雑な色や形になりすぎないように気をつけました。/NOM 2002/11

ハードの解像度向上に対して、キャラクターデザインの複雑化の程度も気をつけたとされている。

第2世代まではキャラクターの画像サイズは縦横56ドットまで制限していた(小さいポケモンは40程度)。また色も2色の塗り分けしかできない。8ドットの差、12色による表現力向上は馬鹿にできない。

リザードンの翼などがわかりやすいが、ポーズもより自由になっていく。
DP→BWではキャラクター自体を拡大することはなく、広い領域はアニメーションさせることに使っている。進化前後など体格差表現のために枠内ギリギリまで描かれることは少ない。

ほんとうに複雑になりすぎないようにできているのだろうか?

RSのドットグラフィックと、BWのドットグラフィックを比較すると 光沢表現や影色の境界の表現に差がみられる。RS時点では比較的「複雑な描き込み」がわずかに残され、「複雑になりすぎないように気をつけ」る過渡期と言える。

やや強引な連想だが、高解像度化の時代の流れと共に複雑さを廃していく傾向、フラットデザインが思い浮かんだ。

ニューステロップなどもアナログ放送とハイビジョン放送の時代でこの傾向がある。

大量の、それも年々増えていくキャラクター群を、繰り返し描く中で、ポケモンの描き方が「最適化」されていった結果、ハイライトなどの細部の描き込みは「やたらめったら」ではなく、使い所が絞られていく。

これはフラットデザインに関係なく、キャラの増加に伴う、1体への描画への省力とも受け取ることもできる。いずれにしろBWまでの「ドットグラフィック」時代、ポケモンデザインは「省略の美」を極めていったとみることができるだろう。


これらはグラフィック解像度があがり、加えられるパーツや要素が増えるが、パーツ単位の書き込みは減少していく、プレイヤーが感じる印象、複雑化」と「省略化双方を説明する仮説だ。
以降の変遷を詳しく見ていきたい。


ドットグラフィックは一定周期で全ポケモンに更新のチャンスがあったが、現在の公式アートは更新がない
2020年現在、第3世代の公式アートは18年も使われ続けているのだ。

しかし、ポケモン自体はフシギダネからゲノセクトまで、ゲームハードの進化と共にグラフィックが徐々に変わっている。
ゲームをプレイせずに公式アートだけを並べて見ていたら、全ポケモンに起こっている変化には気付けないかもしれない。



赤緑〜RS デザイン変遷 まとめ


グラフィックの変遷と影響の大きい外部の表現をまとめた。
全体図のうち 今回は2002年まで

変わらないところ
・どんどんバリエーションを増やして「ポケモンっぽい」デザインの幅を広げていく


大きな変化

赤緑発売後
・ドットベースでふんわりしていたポケモンのイメージが、人気上昇に伴う商品化、アニメ化によって固まっていく

金銀
・新しいゲームハードやTVアニメ、映画企画など、環境変化が開発に大きく影響を与えていた。

RS
・アニメなど外で定着したイメージから脱却を試み、リビルドした
・ドットからイラストベースのキャラクターデザインに移行
・公式アートをデジタル彩色に変えた(ただししばらくは線画はアナログ)


今後の課題
・3D化、HD画質化世代での大きな段差を確認(公式アート含め)
・バリエーションと、そのカテゴリー内のデザインの増減を集計(人型・無機物など)
・タマゴグループでない人型と感じられる「擬人化」カテゴリの定義を精査



概念と化したインドぞう


アニメ化はゲームの世界観自体にも大きな影響を与えた。
「赤・緑」はウルトラ怪獣手帳から膨らませた「インドぞう」が登場するポケモン世界だった(開発史参照)が、徐々に「実在動物や実在地名」が存在しない世界へと移行していく。
以下に経緯をまとめた。

アニメ製作上層部との脚本検討段階(首藤さんのコラム)と
アニメーション実作業の現場(アニメキャラ設定一石小百合さんのTweet)
で情報の伝達にずれがあり、アニメ版初期には解釈の齟齬があったようだ。

脚本・首藤氏の小説版の独自設定についてはこのコラムが詳しい。
イヌやネコなど実在動物がポケモンの他にいるかいないか、それはポケモンの世界観がどのようなリアリティを伴ったものなのか判断するのに大きく影響する。肉食のポケモンや人間たちは、海で実在の魚を獲って食べるのか、サカナポケモンを獲って食べるのか。

捕食描写は大げさだが、例えばポケモンには「生物感」があった・なくなったという話をする際、頭に思い描くのは架空世界・現実世界どちらの映像だろうか。ファンどうしでさえ想像するビジョンが異なると細かいニュアンスが通じず実に悩ましい。


「インドぞう」の扱いが「劇中描写」から「メタメッセージ」へと移行したこの曖昧で凸凹な境界をどのように解釈しているか。人によるポケモンらしさの感じ方の差の最後の最後にネックとなるのが「インドぞう問題」だと考えている。

それがこのブログタイトルの由来である(伏線回収)。


次回、本篇に3D要素が入り始めた DS世代以降の変化をまとめたい。
情報の精査と整理に またしばらくお時間を頂きたい。

突然の自慢

4 件のコメント:

  1. 「系統樹書いてみた」のリンクが失敗しているようなので修正お願いします

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    1. ご指摘ありがとうございます。リンク修正しました。

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  2. こういう感じの研究ポ○書さんがいっぱいやってた気がするけどまるっと消えちゃっててかなしい;;

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  3. おおたさんとよしかわさんは青版のクレジットに登場しますよー

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はじめに

このブログについて ポケットモンスターシリーズの世界観について、1人のファンが非公式に考えたことをまとめていくブログです。自身の意見の全容がわかるように置いておくのが開設理由です。 主に オリジナル である ゲーム (株式会社ゲームフリーク開発の本編) を中心 に、派生ゲ...