2021年4月23日金曜日

ポケカ杉森建イラスト収集

ポケモンのデザインが話題にあがる際、引用されるのは基本"公式イラスト"だ。ポケモンキャラクターは様々なメディア、クリエイターによって多様に描かれるが、その原作・デザインの基準にあたる。

"公式イラスト"が描かれた時期は、新旧10年以上開きがあり、絵柄の変化、絵の更新、描き手が交代したものも含まれる。デザインそのものの単純比較が難しいことはこれまでの記事で纏めてきた通りだ。

ポケモンらしさ-2_意見分析 マスコット感検証

ポケモンらしさ-9_BWとデザイナー

その"公式イラスト"をこれまで多く手掛けてきた杉森建氏は、書籍「ポケモンカードゲーム イラストコレクション」(2014)で"公式イラスト"について語っている。

-ポケモンの公式イラストとポケモンカードゲームのイラストの特徴や作画時のポイントを教えてください

 公式イラストは、ポケモンを紹介する役割があります。このポケモンはこういうすがたをしていて、こういう行動をするとか、そのポケモンの個性を1枚のイラストで全部見せないといけません。そのため、平均的な構図やポーズになってしまいがちです。 

 かたやポケモンカードゲームは、場面を切り取ったような絵なので、攻めたイラストを描けます。カメラがすごく寄ってもいいし、アングルも自由です。迫力さえ出れば、ポケモンの体をすべて描かなくてもOKになります。特別なワザを出しているところなど、ポケモンのさまざまな面を描けます。そこが面白さですよね。/ポケモンカードゲーム イラストコレクション(2014)

ポケモンカードイラストはいわゆる"派生"だが、今回は"本家"でもある杉森氏によるカード描き下ろしイラストに注目してみよう。

カードゲーム自体はこどもと軽く遊ぶ程度の熱心なプレイヤーではなく、イラスト愛好家な視点になる。さほど詳しいわけではないので間違った言及があれば指摘頂ければ幸い。


Illus.Ken Sugimori のポケモンカード

本文中、ファイアレッド・リーフグリーンはFRLG、ハートゴールド・ソウルシルバーはHGSSと略す
赤・緑のポケモン151種は、最低2回描き直されている。
初代公式アート(1996〜)
旧アナログ彩色公式アート(通称青版 1997〜)
現デジタル彩色公式アート(2004〜)

杉森氏のイラストがアナログ塗りかデジタル塗りかは、ハイライト部分が完全な白か否かで見分けられる。アナログ彩色は色を塗る際、あえて原稿用紙の白色を塗り残すことで光の当たった明部を表現し、さらに水彩の滲みが淡く美しい効果をもたらす。

公式アートの中にはタッツーの背びれの数などデザインの細部が変わるものがある。タッツーの場合はデザイン修正の必要からか、現デジタル彩色公式アートに先行して線画が描き直された第3のアナログ彩色公式アート(2000〜)が存在する。
(以下新旧の公式イラスト各個を指す場合は、これまでの記事に倣って"公式アート"と呼ぶ)

青版公式アートを加工した「カスミのタッツーLv.16」イラスト

ポケモンらしさ-4_デザイン史・赤緑〜RS」でも比較したとおり、青版アートは第2のイラストとして"平均的な構図やポーズ"より活き活きとしたイラストなのが特徴だ。杉森氏の言葉で言えばポケモンカード的に攻めたイラストとも言える。

ポケモンカードにはどの公式アートとも異なる杉森氏のイラストがあり、"描き下ろしイラスト"とはこれらを指す。例えば「カスミのタッツーLv.10」は背びれ1枚(影になって見えないだけの可能性はあるが)で、おそらくデジタルで彩色されている。

ポケモンカードには Illus.(イラストレーターの略)とイラストの描き手が記名されている。
杉森建氏の場合はIllus.Ken Sugimoriと書いてあるカードを、リリース順が描かれた順番と仮定して、時系列ごとに追って見ていこう。


ゲーム発売前後 公式アートのない瞬間


ゲームソフト「赤・緑」発売に向けて放送されたTVCMには奇妙なイラストが混在していた。杉森建氏が描いた旧公式アートに混じって、ゲーム内ドット絵をトレースしたようなポケモンイラストが使われているのだ。このCM以外で見たことがない。

特に150の文字が被らずはっきり映る「コダック・ズバット・スリープ・プリン・ドードー」は特に違和感に気付きやすい。以下、コマ送りで全て抽出して確認してみた。


ゲーム付属の取扱説明書(1996/02/27)に掲載された"公式アート"はそのまま映像に使用され、それ以外がCMオリジナルイラストになっている。それらは、攻略本『ポケットモンスター図鑑』(1996/04)が制作されるまで、未だ杉森建氏に"公式アート"が描かれていない、つまりCM制作時点で存在しないポケモン公式アートの代理のようだ。
ー最初に公式イラストが必要になったのって、 何のためだったんでしょう? 
杉森 『ポケモン赤・緑』の最初の攻略本で、アスペクトから出た『ポケットモンスター図鑑』に全ポケモンのイラストを掲載したいと 言われて描いたのが最初ですね。でも、その段階ではポケモンの原画ってドット絵しか存在しなか ったので、そのドット絵から全部自分の絵として描き起こしていったんです。ちょっと気にくわないところは修正したりして(笑)それで全部自分のキャラクターらしくしたのが、以後、僕がすべてのポケモンのテイストを統一させるようになったきっかけですね。/『杉森建の仕事』(2014)
書籍『ポケットモンスター図鑑』中身をとりあげたこちらの記事も参考頂きたい。
ドット絵からおこした別のイラストについて、思い浮かぶのがポケモンカード制作者へのインタビューの回答のひとつだ。多くのカードイラストを手掛けてきた有田氏は早期からカードゲームの制作に参加されていた。
<前略>『ポケットモンスター赤·緑』の発売前で、ポケモンのゲームアートや設定がありませんでしたから、モノクロのドット絵で描かれたポケモンたちに、テストとして色を付ける作業から始めました。そのうちにポケモンのゲームアートが揃ってきました。<後略>/ポケモンカードゲーム アートコレクション(2016)
カード企画の検証なので、印刷解像度のイラスト化であり、有田氏の作業は単純なドット絵のカラー化作業(スーパーゲームボーイのカラー対応はゲームフリークが行った)ではないだろう。明言はされていないが、CMイラストがそのカードイラスト"テスト画像"が使われた可能性もある。

(これらの書籍からの出典は以下、イラストコレクション・アートコレクションと表記する)

カードではないが、派生商品化にまつわる話でこんなものもある。
石原:元々ドット絵とイラストだったキャラクターを、バンダイでガシャポンで売り出すときに立体化しなくてはいけなかったんです。そのときに杉森君は山のようにポケモンの後ろ姿を描かされたんですね。  
杉森 : 今まで気分で描いていたポケモンの背中のトゲの本数まで決めなくてはいけないんですから。/絶対ゲームボーイ読本 ポケモンの生みの親座談会(1998) 

杉森氏のキャラクター解釈はポケモンの商品化展開の要で、彼の描くポケモンの絵や資料が各方面から待たれていたことがわかる。



アナログ彩色のカードイラスト


上段「スターターパック」(1996/10)
ミュウLV.8「小学館コロコロコミック 97年2月号」付録(1997/1)
フジろうじん「化石の秘密」(1997/06)

 最初期のイラストがアナログ手描きであることは杉森氏の言及がある。絵の具と説明されているがポケモン以前から「カラーインク」を愛用されていたようだ。

ポケモンカードゲームでも「ミニスカート」(ポケットモンスターカードゲーム第1弾)の頃は手描きで、絵の具で色をつけていました。/イラストコレクション

同じアナログ彩色のカードとして並べたが、「オーキド博士」は描き下ろしではなく、ゲーム付属の取扱説明書に切り取りなしの全身イラストが掲載されている。人物公式アートと判断し、収集対象から外したため所持しておらず、後年の「オーキド博士のヒント」で代用させてもらった。(昔持ってたのは紛失…)マサキも同様に、カード化以前に攻略本「ポケットモンスター図鑑」にイラストが掲載されているためカードオリジナルではない。同書にはミニスカートのカードと異なるイラストも掲載されている。

謎のカードオリジナルキャラクター・にせオーキドはかせは後にも数枚描かれることになる。杉森氏の発案なのだろうか。

(カードのファイルを見ながら)「にせオーキドはかせ」(ポケットモンスターカードゲーム第1弾)も描きましたね。にせオーキドはかせは、ポケモンカードゲームの貴重なオリジナルキャラクターですからね。しかし「にせ○○」って完全に昭和の発想ですね、これ(笑)。/イラストコレクション

ポケモンの公式アートにデジタル彩色が使われたのはルビー・サファイア(2002)からだが、杉森氏はカードイラストではより早い時期にデジタル彩色に切り替えており、着彩までアナログで描ききられたものは、掲載した以上の数種のみである。

ミュウLV.8 
たしか「コロコロコミック」の付録用だったと思います。カラーインクでアナログ描きをしている後期です。 ミュウ発見みたいなイメージですが、ギアナがどんなところなのかは知りません。/アートコレクション

ミュウのプロモーションカードは、氏の背景込みのアナログイラストとしても珍しい。



イラストがデジタル塗りに

拡張パック第4弾「ロケット団」収録分からは完全にデジタル彩色に移行している。
第4弾「ロケット団」 (1997/11)
ロケット団参上!は、アニメオリジナルキャラクターのムサシ・コジロウだが、元々キャラデザインは杉森氏によるものなので、デザイナー本人に作画されたイラストとして貴重だ。ゲームにムサシ・コジロウのグラフィックが登場した「ピカチュウバージョン」は98年発売なので、それより早い。黒服なのは気になるポイント。

おねーさんの方は後に、ゲーム「金・銀」(1999/11)に、したっぱ女性として登場することになる。髪型のデザインはアニメでロケット団員ヤマト(1998/08 #57)に使われている。

何度も公式イラストなどで同じポケモンを描き続けていた杉森氏は「わるいリザードン」についてこうコメントしている。

リザードンというキャラクターの特徴を1枚の絵で見せるには、尻尾の炎を同じ枠内に描くのがベストなのですが、正面からの構図がネタ切れ気味だったので、尻尾なめのバックショットにしてみました。悪い感じとも合っていて、良いと思います。/アートコレクション

ポケモンカード独自の展開が、本来見ることのない面を引き出していて面白い一例。


描き下ろしの宝庫 ポケモンジム

1998年からは「ポケモンジム」シリーズが展開され、原作ゲームのジムリーダーたちに焦点があてられる。ゲームのデザイナー本人によるイラストが多数収録され非常に楽しいシリーズだ。

ポケモンイラストも新規に多数描き下ろされた。ここでは割愛したが、当時ゲームフリークのデザイナーにしだあつこ氏本人によるイラストも多く収録されている。

ポケモンジム第1弾「ニビシティジム タケシ」(1998/04)
「タケシ」のイラストは後に「タケシのガッツ」として再利用されたので比較用に並べた。イラスト再録の際、トリミングが微妙に異なるものは多いのでゆくゆくは揃えてみたい。「タケシの育て方」は巨大なイワークとの体格差が描かれていて非常に良い。

ポケモンジム第1弾「ハナダシティジム カスミ」(1998/04)
先の「カスミのタッツー」もここに収録されているものだ。改めて後述するが「カスミのなみだ」は海外版ではイラストが差し替わっている。素っ裸だからだろうか?


ミュウツーの逆襲 ジャンボカード「コロコロコミック1998年5月号」付録
劇場版公開直前の描き下ろしイラスト。比較用に通常サイズのミュウと並べた。


第2弾「クチバシティジム マチス」(1998/07) 
マチスのピカチュウ」は以下のインタビューで触れられた"目がキリっとしたワルい雰囲気のピカチュウ"のことかもしれない。
遠藤氏:田尻くんは、CEDECに出てくれたときですよね。杉森くんはもっと前だな…… 
確かそのとき、ちょうどアニメが始まって、あのピカチュウを見て「あんなのピカチュウじゃねえや」と言って、こう、もっと目がキリっとしたワルい雰囲気のピカチュウを描いてもらったんですよ。 
杉森氏:……え、そんなこと、ありましたっけ? 
一同:(笑) 
遠藤氏:あった、あった。「絶対に、ゲームのピカチュウのほうがカッコいいよ!」と言って、描いてもらったんですよ(笑)。僕は主人公キャラが好きな人間なんで、ピカチュウには思い入れがあったんですよ。 
杉森氏:ありがとうございます(笑)。「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?「ゲームの企画書」第一回

マチスのレアコイル」は、ネジの数が青版公式アートと異なり、初代準拠となっている。FRLGで描き直された現公式アートは、現行ゲーム内の3Dグラフィックとネジの数が異なっているので、デジタル彩色でネジの数も一致する「マチスのレアコイル」の方が 現状"公式イラスト"に相応しいかもしれない…


第2弾「タマムシシティジム エリカ」(1998/07) 
「礼儀作法」「お上品攻撃」などエリカのキャラ掘り下げがすごい。キャラの服装が多様なのもこのシリーズの特徴だ。現在どんなSRイラストもオリジナル衣装を着せることはない。原作がモノクロドット絵かつデザイナー本人だから可能な表現だろう。

CD付き楽譜「ポケモンひけるかな?」(1998/07)
同時期に発売された書籍にも触れておきたい。イラストは杉森氏によるもので、カバー表紙を除いてポケモンイラストは青版公式アートが使われているが、人物イラストは全て描き起こしとなっている。ポケモンカードのジムシリーズと並行して描かれており、後述するが一部カードに転用されている。

ジム拡張パック第1弾「リーダーズスタジアム」(1998/10)
人物と一緒に描かれたポケモンや、全身が構図に収まらないアップなど"攻めたイラスト"のポケモンが描き下ろされている。杉森氏の下絵が公開されたことがある。「タケシのロコン」はTVアニメでタケシがゲットしたのに合わせたチョイスだ。"ロケット団のおねーさん"も再登場している。

ナゾノクサ、クサイハナは歴代公式アートと比較すると黒味が濃い。ゲームグラフィックと合わせて時系列順に並べ 前後のドット絵と続けて見るとわかりやすい。アナログ彩色とデジタル彩色の間で「黒色」感覚のズレがあり、色の解釈が統合されたのが第3世代以降なのかもしれない。ゲームでは最初から緑色な、キレイハナの顔が黒く塗られている公式絵の経緯は謎ではある…

ちなみに「エリカの親切」のイラストには杉森氏のこんなコメントがある。
なんかツッパリが捨てられた子大に優しくしてるところを偶然見てしまってヤダ○○クンって、優しい……ドキ……的な場面を目指しました。性別逆ですが。/イラストコレクション


ジム第3弾「グレンタウンジム カツラ」「ヤマブキジム ナツメ」(1999/02)
カツラ関連がやたらと多い。特に「カツラのロコン」は2種も描き下ろされている。
たかさのクイズならまかせろーっ!

ジム拡張パック第2弾「闇からの挑戦」(1999/06)

パッケージ用の人物イラストはカード化されていないが、杉森氏が描いたと思われる。

拡張パックでもカツラは新規2枚描き下ろし。杉森絵のキョウは1枚しかない。ポケモンカードはどくタイプが「草」に統合されているのがエリカと被るのが、テーマデッキが無かった一因だろう。タケシのいわタイプと「闘」で被るじめんタイプ専門のサカキは、「ロケット団」のボスとして別に描かれるチャンスが多い。
ジム拡張パック第2弾「闇からの挑戦」(1999/06)
サカキはホログラム加工されているがキョウには無い。海外版ではホロ仕様になっていると知り、あまりにも不憫なので海外オークションで入手したキョウが下段のもの。伊賀忍者の子孫だが海外名はKogaだ。

任天堂公式ガイドブック(1996/04)掲載 没カツラ / アニメのカツラ(1998/08) 
カツラは開発中はデザインが異なっていたようで、ゲーム取扱説明書初版や初期の攻略本では差し替えが間に合わなかっただけでなく、アニメの制作スタッフにも古いデザインが渡ってしまっていた。とはいえアニメで正しい方のサングラスとひげも拾われているところを見ると、正没両方のデザインを用いて「カツラのかつら」というギャグをやるためのデザインアレンジが成されたのではないだろか。
カード描き下ろしは、そんなアニメのイメージを訂正するかのような怒涛のカツラ供給だ。
取扱説明書のカツラは没版だけでなく、2パターン存在する。右から赤緑青ピカチュウ。

杉森氏の描いたカントー地方ジムリーダー(+ワタル)の変遷

サカキのニドキングのポケモンイラストは青版公式アート流用
注目したいのがひけるかな?」のサカキのイラストが、ポケモンカード「サカキのニドキング」などの所持者アイコンとして使用されている点だ。他のリーダーのポケモンはトレーナーカードと共通のイラストだが、サカキは異なる不思議な使われ方をしている。

NINTENDO64「ポケモンスタジアム2」(1999)
ひけるかな?」のワタルのイラストも加筆され「スタジアム2」に使われている。他の四天王であるカンナ、シバ、キクコの杉森氏のイラストは、カード化もなく「スタジアム2」まで見られなかったと思われる。他のジムリーダーは取説のイラストを塗り直したものが使われ、「ポケモンスタジアム金銀」(2000)では、キョウ、カツラ、ワタルは「スタジアム2」のものを流用しているようだ。

2004年の「赤・緑」のリメイク「FRLG」は四天王に至るまで杉森氏によって全身イラストが描き起こされ、その後10年以上使われ続けているので、現在はその姿でイメージが定着しているだろう。
二度目のリメイク作「Let'sGO!ピカチュウ・イーブイ」では、人物キャラクターデザインが水谷恵氏によって低頭身でリファインされたが、ワタルのデザインは「ひけるかな?」のワタルの衣装をオマージュしていると思われる。元のイラストが「ひけるかな?」以外でどの程度使用されたのかよくわかっていない。海外ではイエローバージョンの公式アートとして受け取られている節がある。

下段は2000年頃に発売された海外版。
「カスミのなみだ」「ナツメの眼」は海外版でイラストが差し替えられている。これらも杉森氏の描き下ろしで、他のジム拡張のものと一緒に下書きがTwitterに投稿されたことがある(カスミもうっすらとナツメの裏に透けている)。国内外でカードの発売時期は開きがあるものの描かれた時期が近かった可能性はある。

「ポケモンジム」構築済みデッキのパッケージに描かれたポケモンも杉森氏のイラストだと思われるが、こちらの2種はカード化されていない。「ナツメのケーシィ」に至っては4種存在する内2枚は同じ初代公式アートを使用している謎がある。タイミングの問題でカードデザインに反映できなかったのだろうか。


ゲームもカードも第2世代 ★neo

「金・銀」発売記念プレミアムファイル(1999/12)
翌年2月から新展開のシリーズ「★neo」のフォーマットで先行して"御三家"セットが発売されている。たねポケモン3匹は旧公式アートだが、除く6枚はデジタル彩色の新規イラストだ。ただしバクフーンは旧公式アートと線画が共通で、アナログ→デジタルの彩色手法違いが観察できる珍しいパターンである。

アナログ彩色の旧公式アートを中間の1進化のみ、カードイラストと入れ替えると、描かれた体の向きが統一される。逆に言うと、旧公式アートでは進化するたびに体の向きが異なるイラストになる…という3タイプ共通の規則で統一されているようだ。仮に入れ替えてみたことにより、向きが揃うよりも変化量が大きく感じる点が効いているのかもしれないと感じた。

プレミアムファイル収録カードイラストは、公式アートのポーズ案として描かれた候補のうち、採用されなかった線画を、デジタル彩色して再利用したのではないだろうか。バクフーンは元々1案のみだった故に、同じ絵をデジタルでリメイクした形になったという推測だ。

チコリータのカードと公式アートで色味が異なる点も気になる。ベイリーフ寄りの黄色か、メガニウム寄りの黄緑かで紆余曲折あったのかもしれない。この場合はアナログ彩色後に、デジタル処理で色調補正が行われたと考えられる。この頃から既に、手法としてはデジ・アナ ハイブリット作業だったのだろう。
カクタスごうさんの記事で、公式アートのアナログ原画へのCG加工の痕跡について触れられている。

プレミアムファイル2(2000/07)
アニメ劇場版公開記念のセット収録の3枚。劇中の対決を意識したエンテイとリザードンのイラストは筆者もお気に入り。

(時期が前後するが)、ウツギはかせ、クルミ「金、銀 新世界へ...」(2000/02)
エンテイ,ライコウ,スイクン,ポケモン育て屋夫婦「めざめる伝説」(2000/11)
ロケット団の暗躍、にせオーキドの発明「闇、そして光へ...」(2001/04)

カードイラストにいくつか杉森氏のコメントがある。

「ポケットモンスター」シリーズは、ゲームボーイ向けに発売していた頃は、サブキャラクターの公式イラストを用意することが少なかったんです。ゲーム中でも、キャラクターグラフィックは汎用的なドット絵を使用し、名前だけ変えたりしていました。
「ポケットモンスター金·銀」に登場する「クルミ」などから、サブキャラクターのイラストを描けたのは楽しかったですね。
/イラストコレクション 

エンテイ,ライコウ,スイクン
パッケージにも使われた絵です。3体セットで威厳があって神々しい感じになるように気をつけました。/アートコレクション
ポケモン育て屋夫婦
子供が独り立ちして今は二人暮らしの老夫婦が仕事を終えたイメージです。夕景っていいもんですよね。/イラストコレクション

カードイラストではじめて解像度があがったクルミのような、本編サブキャラクターの描き起こしは、杉森氏イラストの楽しみのひとつだ。

描き起こされた「ロケット団の暗躍」カードイラストの幹部は「ポケモンスタジアム金銀」(2000/12)で先行して描かれている。「スタジアム」も「暗躍」も、本編「金・銀」のドットグラフィックとは女性幹部の髪型が左右反転している。

リメイクの「HGSS」(2009)ではアテナとアポロという個人名がつけられ、当作のアートディレクターの海野隆雄氏によって公式アートが描かれた。アポロは「金・銀」の男性幹部の印象を踏襲している。

ゲーム取扱説明書マサキの全身イラスト(1999/11)/「マサキのメール」(2001/04)
ちなみに、マサキの公式イラストはアナログ着彩のようで、公式アートでカード化された「マサキのメール」は、この時期デジタル彩色でない杉森氏の人物イラストとして珍しいケースだ。


コレクション難関…

杉森絵カード収集は元々所持していたものに加え10年かけて少しずつ進めていたもの。
以下ぐだぐだしていたらどんどん高騰してしまって未だ手を出せていない。

所持してないのでオークション等から拾った画像ですいません

コイキングLV.10 小学館学年誌「タマムシ大学ハイパー博士試験」賞品(1998/12 後年★web版もあり)

ひかるコイキング,ひかるギャラドス「めざめる伝説」(2000/11)
ひかるヨルノズク,ひかるハガネール,ひかるバンギラス「闇、そして光へ...」(2001/04)

カード収集は恐ろしい世界だ。



★VS ジムリーダー

ここから裏面のデザインが現在のものに変わった。Illus.Ken Sugimori表記ではないが、このシリーズのために描き下ろされた人物イラスト多数のため「ワザマシン」も揃えてみた。


劇場版用に杉森氏のデザインした「仮面のビシャス」が描かれたR団のポケモンのカードも。 映画に登場するユキナリも描き下ろされている(下画像右上)が、カード化されてはいない。

ワザマシンの無いキョウ、またしても不遇だ。各人物は全身描き下ろされているようで、実質旧金銀における人物公式イラストとも考えられる。
「金・銀」取扱説明書(1999/11)のイラストはアナログ着彩で、「ポケモンスタジアム金銀」(2000/12)のイラストは、ハヤト・イブキ以外は説明書とポーズも異なる絵が用意されている。四天王イツキとカリンは、カード★VS(2001/07)のイラストは「スタジアム金銀」の印象に近い。杉森氏のそれぞれの絵に連続性が感じられる。

先に画像をまとめた通り「金銀カントージムリーダーのポケモン」も存在するが、そちらはジョウトジムリーダーたちのような全身イラストは公開されていないようだ。


ポケモンカードe

ゲーム本編「ルビー・サファイア」(RS)の発売前、まだ「ポケモンGBA」のまま正式タイトルが決まらず増田ディレクターの胃に穴が空いていた頃…先行してゲームボーイアドバンス(GBA)カードeリーダー対応のポケモンカードとして発売されたのがこのシリーズだ。

カード券面の縦横サイドに二次元バーコードが印刷されている。カードeリーダーで読み込むとミニゲームや図鑑表示でGBAを遊べる。

右4枚は再録版で代用
フシギダネはマクドナルドオリジナル ミニマム★パック(02/01)収録。つるのムチがマクドナルドのMの字になっている
いくつか杉森氏のイラスト解説コメントがある。
ウツキはかせの育てかた カードe基本パック(2001/12)
今見るとマンガの1コマみたいで面白いですね。ウツギは僕の中ではかなりおっちょこちょいキャラなんだと思います。海外でサイン会をすると、このカードにサインしてくれと持ってくるお客さんがなぜか多いのですが、このウツギが僕に似てるということらしいです。/イラストコレクション

モノマネすめ ポケモンカードe 基本パック(2001/12)
マンガみたいにセリフや動きがあれば別ですが、一枚でモノマネしてるところを表現するのは意外と難しいということがわかりましたので、割り切ってコスプレを出していくことにしました。/イラストコレクション

マサキのメンテナンス ポケモンカードe 基本パック(2001/12)
メンテナンスしているのは赤線で例のヤバい事故を起こした転送装置です。そりゃメンテした方がいいと思います。口にくわえているのは、何かリセット用のピンみたいなモノです。 /イラストコレクション
アニメ無印#37他 イミテ(1997/12〜)

モノマネむすめは「赤緑」や「金銀」に登場したヤマブキシティの住人。髪型はアニメの登場人物イミテを意識したと思われる。元のキャラデザインがどなたによるものかはわからない。カードイラスト内のロケット団のコスプレは「ロケット団のワナ」のセルフオマージュになっている。


拡張パック「地図にない町」(2002/03)「海からの風」(2002/05)など

 サイキッカーやジャグラーなどゲーム登場のモブトレーナーだけでなく、カードオリジナルの行商人などの人物も登場する。

ー杉森さんが描いたイラストの中で お気に入りのカードを教えてください

森の番人」です。このカードを選んだ理由は、単純にそれまでのイラストと描き方を変えた、という点なんです。僕はかつては漫画家志望だったので、絵は漫画の手法で描いてきました。つけペンで主線を描いて、淡い色を塗る手法です。ポケモンの公式イラストも、初期はこの手法で描いていました。そのため、絵の芸幅は広くないんです。しかし、ポケモンカードゲームのイラストレーターの皆さんの作品は芸の幅が広くて面白い。自分も違う手法に挑戦してみようと思って描いたのが、「森の番人」なんです。 

(中略)ビデオゲームでいうと「ポケットモンスター 金·銀」の時期からパソコン向けの画像編集ソフトを使い始めて、少しずつ操作に慣れていき、だいぶ使いこなせるようになったタイミングで、「森の番人」を描きました。/イラストコレクション

線画を取り込まず、(いわゆる厚塗り的に)フルデジタルで描きあげたのがこの「森の番人」からのようだ。


ADV・PCGシリーズ

杉森氏のコメント抜粋 

ミツルの育成 ADV「砂漠のきせき」(2003/4)
体の弱かったミツルがラルトスとともに元気になっていく感じですが、ちょっと背景処理は元気すぎたかなーという気もします。もっとほんわかにすればよかったです。/イラストコレクション

 

ホウエン地方のマサキポジションである、あずかりシステムの管理人マユミもカードで解像度があがった。画面の反射越しに映る姿という面白い構図だ。元々はモブトレーナー"おじょうさま"のフィールド上のグラフィックを流用したNPCだったが、カード化を経てメガネとヘアバンドのアレンジが付加された結果、3DSのリメイク版ではそれに準じた専用モデルが用意されている(実機では縮小されて見辛い)。

ちなみに"おじょうさま"は全身の公式アートがゲーム取扱説明書に掲載されていて、流用でカード化もしている。

マユミの姉のアズサはGAMECUBE「ポケモンボックス ルビー&サファイア」(2003/05)向けに杉森氏が描いている。10年後の3DS「ポケモンバンク」(2013/12)で再登場し妹に遅れてカード化した(XY BREAK「青い衝撃・赤い閃光」2015/05)が、こちらの新デザインの公式アートは水谷恵氏によるものだ。現在は複数のイラストレーターが公式アート作画に関わっており、描き手が判明するのがポケモンカード下部の表記というパターンが多い。

RS戦闘グラフィック(2002)/ORAS大村祐介氏?(2014)/なぎみそ氏によるSRフルアート(2018)
TVレポーター」はゲームでは"インタビュアー"として闘うことになるNPCトレーナー、マリとダイだ。ゲームドット絵を主観で描き直したかのような構図だ。リメイクORASでは人物デザインを変更しているが、マイクを持ち迫ってくる感じは、カードADVのイラストを参考にしているのではないだろうか。カードでSRフルアート化する機会があったが、この弾は元の杉森絵リスペクトという趣旨により青髪のマリが再び描かれた。

「蒼空の激突」(2004/07)「ロケット団の逆襲」(04/10)
「まぼろしの森」(05/06)「ホロンの研究塔」(05/10)など
RSのソライシはかせまで解像度があがるのが面白い。「ロケット団参上!」のイラストリメイクも嬉しい。「ロケット団の幹部」はマンガ「ポケットモンスターSPECIAL」にロケット団のサキとして登場した。"ポケSP"は原作ネタの拾い方に定評があり、杉森氏のカードイラストに準拠したキャラも度々登場している。

「フィールドワーカー」はおそらくフルデジタルで描かれており、「森の番人」からさらにデジタル作画作業を試行錯誤した様子が伺える。

「ポケモン大好きクラブ」は公式ファンクラブ『ポケモンだいすきクラブ』の"ポケモンカードゲームはじめて教室"(2005夏)で貰えたプロモーションカードらしい。カードeのリメイクだが、あちらが濃い集団だったのに対して かわいらしい集まりになっている。

DPシリーズ

「湖の秘密」(2007/03)~「フロンティアの鼓動」(09/03)

杉森氏コメント抜粋。シンオウ地方のあずかりシステム管理人ミズキのデザイン解像度の上げかたが興味深い。

ミズキの検索 DP「湖の秘密」(2007/3)
ゲーム中のミズキは固有の絵がなく、バトルガールのグラフィックがあててあったため、遠くからの見た目はバトルガールと同じでありつつ、バトルガールとは真逆の文化系な感じをいかに出すかを考えで絵の雰囲気をつくりました。後ろのニャルマーは目を覚ましたらマグカップをひっくり返したりキーボードの上を歩いたりしてミズキの仕事を台無しにするんだと思います。/イラストコレクション

ママのきづかい  DP エントリーパック '08 (2007/11)
バッグの中にコッソリ入れてくれてるのは「きずぐすり」なんですが、ハイテク感があっていかにもクスリ然としたデザインではないので、絵としてはわかりづらいですね。/イラストコレクション

シロナの想い  DP「怒りの神殿」(2008/3)
シロナを描くときに気をつけているのは、とにかく美しくということですね。背景の場所は確かポケモンリーグで、バッジを集めてやってきた主人公を、調子乗ってんじゃないわよと迎え撃っているところだと思います。/イラストコレクション

ロトム DPギフトボックス(2008/11)
お化け屋敷でロトムが古い家電でイタズラしているイメージです。会社の近くの鰻屋の座敷にいい感じの黒電話があって、作画の参考にしました。/アートコレクション

多くが最終的にアナログ線画を用いない描き方になっている。「黒電話」わかりますか?

ゲーム「プラチナ」(2008/09)のイメージイラストも同時期の杉森氏によるものだが、キャラクター公式アートのような線画を入れずに描かれている。カード描き下ろしイラストの変遷を見ていけば氏が獲得してきた表現幅の広さだとわかるだろう。


フルアートカード

ポケモンカードの「SR(スーパーレア)」枠としてフルアートでトレーナーズのカードが初めて登場したのが シリーズBW「レッドコレクション」(2011/07)の「N」だ。

その後様々なイラストレーターによって魅力的な人物フルアートカードがSRとして封入され、良くも悪くも以後のパック開封の目玉のひとつになっている。あくまでポケモン推しなバランスは保ちつつも、人物キャラクター人気需要に応える方向性へ舵を切り始めた契機と言える。いわばスマホアプリ「ポケモンマスターズEX」などの源流だ。

XY「サカキ」(2014/03)、久々のプロモーションカード「レッドのピカチュウ」(2018/08)を最後にポケモンカードの新規描き下ろしは途絶えている

こんなコメントもある。

フラダリ XY「ワイルドブレイズ」(2014/3)
フラダリは、いわゆる非常にインパクトのある容姿をされている方なのですが、カッコよく描くとカッコイイということを見せたくてカッコよくきました。/イラストコレクション

XY公式サイトでフラダリ公式アートが発表されて以降、ネット上で玩具にされてきたフラダリクソコラグランプリに対しての反応とも受け取れる。直接言及するでなく、こうして創作の形で答える杉森建氏の姿勢はとてもカッコいいと思う。

今回は杉森絵はアナログもデジタルもいいよねという話に終始。カードだけではなく、カードスリーブなどポケモンセンターの商品にも描き下ろしは存在するが今回は語りきれず。振り返るとカツラ描き下ろし多いな。
最近の投稿だとアザミさんを描いてくれたのがとても嬉しかった。

9 件のコメント:

  1. 新しい記事楽しみに待ってます!

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  2. この記事を読んでいて、「第一屋製パン」が展開する「ポケモンパン」シリーズ(1998.6〜)のデコキャラシールのデザインに、杉森氏のイラストがどの程度関わっているのか、ふと気になりました。最近のものは全く買っていないのでうろ覚えで語っていますが、アニメ準拠のものが多かったように思います。

    ついでに、ホームページを確認したところ、現在(2023.2)の時点で「第196弾」まであるそうで(しかも歴代シールがすべてデジタルアーカイブ化されていました…! 並々ならぬ同社のポケモンパン愛を思わす感じてしまいました…)、それぞれのシールを見比べてみればできそうですが、果てしない作業になりそうですね。この記事を読んでいて、「第一屋製パン」が展開する「ポケモンパン」シリーズ(1998.6〜)のデコキャラシールのデザインに、杉森氏のイラストがどの程度関わっているのか、ふと気になりました。最近のものは全く買っていないのでうろ覚えで語っていますが、アニメ準拠のものが多かったように思います。

    ついでに、ホームページを確認したところ、現在(2023.2)の時点で「第196弾」まであるそうで(しかも歴代シールがすべてデジタルアーカイブ化されていました…! 並々ならぬ同社のポケモンパン愛を思わす感じてしまいました…)、それぞれのシールを見比べてみればできそうですが、果てしない作業になりそうですね。ご参考までにURLを以下に掲載しておきます。何かのお役に立てればと思います。

    https://www.daiichipan.co.jp/decochar/

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    1. ご紹介ありがとうございます。
      シールの性質上杉森氏のイラストは少なそうな印象があります。
      デコキャラシールも歴史が深く、掘り甲斐のあるシリーズですよね。
      「息子よ」のTVCMソングが大好きです。

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  3. 誤ったコピペをしてしまいました…。
    悪文、失礼いたしました。

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  4. はじめまして。
    知性とパワーの詰まった記事に感動しております。
    「杉森氏の描いたカントー地方ジムリーダー(+ワタル)の変遷」の画像が二次創作向けの素晴らしい資料となるので、ツイッターで紹介・拡大して二次利用してよいでしょうか?
    特に「ポケモンひけるかな」のナツメの睫毛の長さ(おそらくロングマスカラ等のアイメイクをしている)とリップメイクが明確にわかる、貴重も貴重な資料です。
    初対面なのに失礼かもしれませんが、ご了承頂けるなら幸いです。

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    1. 遅い返答で申し訳有りません。
      URL含めてご紹介していただけるのは構いませんが、画像のみの転載は避けていただけると助かります。

      古の二次創作オタクとしても、ジムリーダーのカードイラストは当時貴重な資料だったので集めて今まで手元に残しておりました。

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    2. ご許可とご返信ありがとうございます。こちらこそお礼の言葉が遅くなりまして申し訳ございません。
      貴重な資料を集めるのみならず、丁寧かつわかりやすいレイアウトで公開していただけることに感謝しております。

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  5. 管理人のポケモン愛が伝わってくる

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  6. 凄く詳しい記事で感動しました!
    ポケモンカードダスの初代は杉森さんのイラストとどこかで見た事があるのですが本当でしょうか??

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はじめに

このブログについて ポケットモンスターシリーズの世界観について、1人のファンが非公式に考えたことをまとめていくブログです。自身の意見の全容がわかるように置いておくのが開設理由です。 主に オリジナル である ゲーム (株式会社ゲームフリーク開発の本編) を中心 に、派生ゲ...