※過去2016-05-24にブロマガで公開した記事を引っ越し
ゲンシカイキに関する考察
ゲンシカイキとは
ゲンシカイキとは、「カイオーガ・グラードン」を『RS』では見られなかった原初の姿に戻す現象だという。超古代ポケモンと呼ばれた今までの彼らも仮の姿でしかないという言ってしまえば後付設定。
通信関係の項で前述のとおり、『RS』からリスタートを切ったポケモンシリーズが、その後 世代間通信が断絶しないまま『RS』がリメイクされるサイクルが巡ってきてしまった。『赤緑』や『金銀』など、通信互換切り以前のタイトルのリメイクは、リスタート後の補完の意味合いが大きかったのに対し、『ORAS』は「一巡」してしまった故に セールスポイントの一つとして変化をつけたかったのかもしれない。そういった意味でのルビー・サファイアへの「回帰」の意図が含まれている可能性もある。
対戦ゲームの側面から見ると、ゲンシカイキに伴う「ひでり→おわりのだいち」「あめふらし→はじまりのうみ」という特性の変更は、世代を重ね使い手が増えたり永続でなくなってしまった天候変化特性に対し、伝説ポケモンとしての特別感を取り戻すためにも順当な強化であろう。
ネーミングとしては「原点回帰」「原始の時代」を掛けあわせた造語だろうか。
”原始”とは人間の文明が生まれる初段階の俗称で、原始時代、原始人などのイメージで語られ、しばしば神秘性を伴った扱いを受ける。
ゲーム中でも「げんしのちから」という技が存在しており、太古から眠る伝説のポケモンが習得していたり、特定のポケモンが習得すると先祖返りの形に近い進化を遂げたりと意味深なキーワードとなっている。
英訳は”原始への復帰”を意味する「Primal Reversion」 中国語訳は「回復原始」らしい。
”原始”とは人間の文明が生まれる初段階の俗称で、原始時代、原始人などのイメージで語られ、しばしば神秘性を伴った扱いを受ける。
ゲーム中でも「げんしのちから」という技が存在しており、太古から眠る伝説のポケモンが習得していたり、特定のポケモンが習得すると先祖返りの形に近い進化を遂げたりと意味深なキーワードとなっている。
英訳は”原始への復帰”を意味する「Primal Reversion」 中国語訳は「回復原始」らしい。
特性 おわりのだいち、はじまりのうみ
各特性のネーミングにも元ネタがある。ユーラシア大陸最西端ロカ岬の石碑に「ここに地終わり海始まる(Onde a terra acaba e o mar começa)」と刻まれている。ポルトガルの詩人の言葉から着想されたと思われる。リメイク前のRSのミナモシティの看板にも「りくちの さいはて うみの はじまり」とあり、既に12年以上前にこの詩は意識されていただろう。タイトルのΩαから連想する「αにしてΩ(永遠)」とも意味がかかっており、伝説のポケモン絡みのネーミングは非常に美しくまとまっている。
グラードン・カイオーガ 陸と海の象徴としての役割
ゲンシカイキを考察する前に、まずグラードンとカイオーガがどのようなポケモンとしてデザインされ、パッケージを飾る意味を込められたのかを考えたい。
神話など劇中設定から読み取れる立ち位置
RSのポケモン図鑑の文章は、劇中の神話からの引用として語られている
ルビー:グラードン「だいちを もりあげて たいりくを ひろげた ポケモンと しんわで かたり つがれている。カイオーガと しとうの すえ ねむりに ついた。」
サファイア:カイオーガ「おおあめと おおなみで だいちを おおい うみを ひろげた ポケモンと しんわで かたられている。グラードンと しとうの すえ ねむりに ついた。」
またお互いの登場タイトルと反対の側の図鑑文章では人にとってありがたい面が書かれている。
サファイア:グラードン「こうずいに くるしむ ひとびとを すくった。」
ルビー:カイオーガ「かんばつに くるしむ ひとびとを すくった。」
通信交換しなければ確認できない文章であり、興味深い仕掛けである。
オリジナルを尊重してきた今までのリメイクと異なり、伝説のポケモン3体のみ図鑑文章の改変が見られる。
自然エネルギーを巡る争いだったこと、ゲンシカイキのことについての加筆が主である。
サントラ「ルビー・サファイア ミュージックスーパーコンプリート」のブックレットQ&Aより |
リメイク前に制作者から語られた衝撃の事実「実際には戦っていない」がある。
これはプラチナでシロナが語るシンオウ神話の捉え方と同じである。
「ディアルガの時の咆哮…パルキアの亜空切断…大昔の人にとっては 本当に時間と空間のシンボルに見えたでしょうし 心震わされたと思うの
その思いが込められた壁画は 多くの人に何かを伝え いつしか神話を生み出した…」
伝説のポケモンには確かに強大な力があり、時に人を苦しめ、時に救ったのは事実である。そんな体験に尾ひれがつき、干ばつや洪水はグラードンとカイオーガの争いと例えられえ、地震や津波など自然への畏怖の念がアニミズム的な信仰を産み、結果として陸と海の化身の神話が生まれた…というのが正解なのではないだろうか。
以上が劇中テキストを全て鵜呑みにできない理由の一つであり、伝聞など間接的な台詞や文章には第三者のバイアスがかかっている、というつまりゲーム内部設定から情報精度をあえて落とした作りにしているのが一貫してポケモンシリーズの特徴であると言える。これはユンゲラーの図鑑説明文など、伝説でないポケモンでも油断ならない。
ポケモンの世界観を考察するには、「~らしい」などの曖昧表記は言わずもがな「なのだ」などの断定表記であっても、こうした伝聞の二次情報はヒントとして受け止める若しくはそう考える人も存在すると思うに留める必要があるだろう。
公式の20周年企画特集でもホウエン神話の内容について言及されている。「この神話に書かれた2匹の戦いは「古代の人の創作」という説もあり、なぜカレらがねむりについたのかはナゾとなっています。」もやもやドガースより
ただ、RS→ORASでは、「陸地ができたのは地殻変動だし、実際戦ってない」という設定から「地殻変動の原因としては実際戦ってないが、そうした自然エネルギーに反応して活動し時に衝突していた」へ内部設定を更新した可能性もある。詳細については別項で考察したい。
デザイン、モチーフから読み取る設定意図
RSでアクアマグマ団はそれぞれの主張の根拠として ポケモンは海で生まれた、ポケモンは陸で進化したという点をとりあげている。これは現実世界での、海での原始の生命の誕生と、陸地へ進出し進化適応で多様性を増していった生物のことを指しているのだろう。
ホウエン地方初出のポケモンを見ると、陸と海にまつわる「進化の歴史」に関わるモチーフを意図されたものが確認できる。
現実でも生命は約38億年前に海で生まれたとされる。海中のアミノ酸が最初の生命となったのは、海底火山噴出孔付近と言われているので、正確には海要素だけではなく、生命誕生はカイオーガ要素とグラードン要素の相互作用によるものと例えられるかもしれない。
ホウエン地方の化石ポケモンのリリーラ・アノプス。それぞれウミユリとアノマロカリスがモチーフで、まだ地表のほとんどが海で覆われていた古生代カンブリア紀、海の中で発生した。
水棲の”むかしエビポケモン”アノプスが、陸生の”かっちゅうポケモン”アーマルドへ進化するのは大変興味深い。アノマロカリスが節足動物の祖先という学説から、甲殻類のムカシエビと関連付け、海から地上進出をいち早く遂げた動物である昆虫類≒むしタイプの祖先としたのはロマンある解釈である。
アーマルドの甲冑という分類はもちろん外骨格な虫類のことを指すのだろう。植物の陸上進出は虫より先駆けているが、ウミユリは別に植物ではなく、ヒトデやイソギンチャクの類である。やや強引だがリリーラ・アノプスは地上進出が早かった生物、植物と昆虫の祖先として、くさとむしのタイプを背負っているのではないかと思う。
ジーランスのモチーフは生きた化石と呼ばれ現存する種シーラカンスで、この肉鰭綱と呼ばれる魚類から将来、陸上脊椎動物…両生類、爬虫類、鳥や哺乳類へと進化していく。
地殻変動により陸地が誕生し植物や昆虫が上陸、シーラカンス登場に至るのが約4億年前であり、古生代「デボン紀」と呼ばれる。石や化石好きな社長親子の経営するデボンコーポレーションの名の由来であろう。生命の歴史において陸と海を境にする大きなターニングポイントとなる時代である。
また、この時代以降陸上で繁殖したシダ系は恐竜の復元想像図などでも背景によく登場する古生代の代表的な植物。葉の裏の胞子嚢(ブツブツがちょっと気持ち悪い)をデザインに取り入れたジュカインやジュプトルはシダ植物x獣脚類がモチーフなのだろう。
ちなみにホウエン地方にいたかどうかはわからないが、「3億年前に 最強の ハンターとして 恐れられていた」むしタイプなゲノセクトは次の石炭紀の時代のポケモンらしい。肉食のプロトファスマというゴキブリ、カマキリの祖先がそのモチーフに近いという説が面白い。ゴキブリはシーラカンスと同じく生きた化石と呼ばれるほど現在でも姿を変えていない。ゴキブリモチーフ前提、大砲はプラズマ団による後付と解釈して改造前の復元を想像してみた。(右図)意外とかっこよいのでは?…
ホウエン地方の海底に眠る”おふれのせきしつ”に点字で描かれた謎解きのひとつに「はじめにジーランス おわりにホエルオー」という一文がある。
その通りに手持ちの先頭と最後にポケモンを配置して訪れると、各地に散らばるレジ系の遺跡の扉が開くという仕掛けである。そのレジアイス、レジロック、レジスチルの3匹は 氷、岩石、鉱物といった陸地(氷河や北極なども含む?)を構成するタイプを司り、ついでに親玉のレジギガスは大陸を引っ張って動かす神話をもつなど、陸サイドに属す伝説ポケモンといえる。
この点字の一文は、上陸し始めた脊椎動物がシーラカンス、そして海へ還っていった哺乳類としてクジラという 進化における陸と海の関係を指すニュアンスもあるのではないだろうか。エメラルドでジーランスとホエルオーの位置が反対なのは、海へ陸への進化適応という意味では可逆的、おわりとはじまりは同質という考え方に基づく変更かもしれない。
レジ系の存在の詳細については今回ツッコまないが、封印されているのは、えいえんのポケモンと称されている。繰り返しになるが新約聖書において”αにしてΩ”とは始まりと終わりのループ即ち「全て」「永遠」という意味に値する。ルビー・サファイアの頃から思想的にはブレてない証拠かもしれない。
このように生命の海から陸へという古生物の進化に着目したモチーフがいくつか存在し、デボンなどのキーワードがそこへ向いていることは明らかだろう。ここで第三の伝説のポケモン、レックウザのモチーフもはっきりしてくる。
生物の陸上進出には呼吸のための空気中の酸素濃度の変化が鍵であった。また酸素濃度があがって上空に”オゾン層”が形成されたことにより、生物のDNAを破壊しかねない有害な紫外線の地表での量が軽減される。オゾン層形成が脊椎動物の上陸進化のタイミングの大きな要因となったことは間違いない。
「なんおくねんも いきつづけていると いわれる。くもの うえに ひろがる オゾンそうの なかを とんでいるため だれも はっけん できなかった。」
レックウウザのサファイアの図鑑文章はまさに約5、6億年前から形成され高度をあげていったオゾン層のことを指していて、レックウザは地球の生態系の遺伝子を外敵≒紫外線から守る守護神としてのポジションから生まれた空を司る伝説のポケモンなのではないだろうか。
リメイク版では「オゾン層を 飛び続け エサとなる 隕石を 食らう。内に たまった 隕石の エネルギーで メガシンカする。」と飛来する隕石を食べる設定が追加され、より守護者の側面を強めている。劇場版アニメ”裂空の訪問者”のイメージも強く影響を与えているかもしれない。メガシンカと隕石については別項でとりあげたい。
最後に、多くの生物が進化のチャンスとする「大量絶滅」というイベントについて。かつて繁栄した恐竜が絶滅してしまったように、いつか種は滅びてしまう。別の種にとっては繁栄のチャンスでもある。その原因は諸説あるが主に地殻変動、大規模な火山活動、急激な気候変動、海抜変化、氷河期到来など。
まさに生命の進化の舞台である陸と海そのものが牙をむき絶滅にいたらしめ、また新たな進化を促す。グラードンのじしん、ふんか、ひでり、カイオーガのあめふらし、ぜったいれいど、そんな技や特性の設定は厳しい大自然そのものを表現しており、その脅威は生命の進化、多様化に不可欠な要素だったのだ。ゲンシカイキはそのような恐ろしさ、もしかしたら絶滅へと誘う面を強調した姿なのではないだろうか。
生命の誕生も絶滅も包括する陸と海という舞台の上で、生物は生と死、はじまりとおわりを繰り返し、遺伝子を紡いで進化してきたのだ。そんな生命の歴史をポケモンモチーフに投影したホウエン地方のテーマは、XYに登場する不死の身体を得て3000年生きたAZとの対比がよく効いていると思う。
これまで地球上では5度の大量絶滅がおこったとされ、
約6500万年前の隕石衝突が原因と有力視されている大量絶滅では、
恐竜を含む70%の種が絶滅し、
我々人類へと繋がる哺乳類の繁栄につながっていったと言われる。
巨大隕石衝突についてはメガシンカと共に、エピソードデルタについて別項で改めて言及しなければならないだろう。
RS、ORASでのあいいろ、べにいろのたまの役割の逆転
なんとオリジナルとリメイク版では奪われる珠が逆になっている。ここがリメイクの変化としては大きい。当然 主人公が手にする珠も逆転している。例、画像はサファイア側。
オリジナルではカイオーガと紅という不一致な組み合わせ故にコントロールすることができなかったという敵側の失態が強調されているように思えるが、リメイクでは正しい珠の組み合わせでも手に余る力だという面が強調されている。
オリジナルRSの時点でも、もし敵が正しい組み合わせだったらゲンシカイキしていたのか?
いや、サファイアの場合でも主人公があいいろのたまを持って目覚めの祠のカイオーガのもとへ行くのでそれはないだろう。
オリジナルではカイオーガと紅という不一致な組み合わせ故にコントロールすることができなかったという敵側の失態が強調されているように思えるが、リメイクでは正しい珠の組み合わせでも手に余る力だという面が強調されている。
オリジナルRSの時点でも、もし敵が正しい組み合わせだったらゲンシカイキしていたのか?
いや、サファイアの場合でも主人公があいいろのたまを持って目覚めの祠のカイオーガのもとへ行くのでそれはないだろう。
歴代のあいいろのたまのアイテム説明欄を比較してみると
RS:カイオーガをしずめる。HGSS:カイオーガを目覚めさせる。ORAS:カイオーガをゲンシカイキさせる。
入手する人物の逆転に加え、鎮静から活性へと効力まで逆転している。
もはやRSの世界になかった新たな真実が発見された訳ではなく、完全に仕組みが変わってしまったと捉えるのが正しいだろう。
もし珠があの時逆だったら…というようなifの世界ではなく、根本的に異なる世界。
メガシンカの存在しない時間軸と同様、RSとORASはお互いに ゲンシカイキの有無という差異の存在する世界である。
・おくりびやまに珠を返す(マツブサ・アオギリが珠を自ら返しに来ていたことがわかる)
・いんせきをソライシ博士に返す(お礼におんがえしのわざマシンをくれる)
といったイベントが用意されていた。
珠がゲンシカイキのトリガーとなってしまった仕様上しかたがないとはいえ、個人的に"強制でない善行イベント"に好感をもっていたので、ORASでそれらに代わる台詞や所持を継続する許しがなくシナリオが進行していくのは少々後ろめたかった。
単なる道具の分類にすぎないがカイオーガグラードンに持たせるために「たいせつなどうぐ」でなくなったダウングレード感など、あいいろのたま、べにいろのたまの扱いに関しては、設定変更のしわ寄せ感がやや残る。
ゲンシカイキに必要とされる「自然エネルギー」というキーワード、
ゲンシカイキによる世界変革計画「プロジェクトAZOTH」については
次のエピソードデルタで。
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