捕獲アイテムをひとつも所持していない場合 ヒガナにハイパーボールを渡される |
0.エピソードデルタの存在理由
『ORAS』エンディング後のエピローグ、ハルカ(ユウキ)とのバトルイベントは、オリジナルのRSでは描ききれていなかったお隣さんとの関係を綺麗にまとめた追加イベントだ。本当に良かった。
リメイク以前の『RS』はライバル不在と評されることがあった。御三家最終進化系で戦うことなく再戦の機会がないなど半端に終わってしまったお隣さん、終盤の意表をついた再登場をするもそれまで絡みが少なくインパクトに欠けるミツルなど、初代や金銀と比較してライバルポジションの印象が薄かったせいもあるだろう。
『ORAS』本編の感動的な締めくくりから 間を空けず始まるクリア後エピソード「デルタ」。『RS』の更新、補完の範疇から外れた全く新しいストーリーである。発売当初その内容は賛否両論と言われており、先日(※発売から2年後)改めてアンケートで問うたところ、以下のような結果となった。
回答789件程度の簡易的な集計でなにかを結論づけるものではないが76%が総合的に好意的に受け止めて楽しんでいると読み取れる。だが50%以上は手放しには好きとは言えない、受け入れられていないようだ。
最新のソフトは常に賛否あり、世代を重ねていくごとにファンの間では馴染んできたが、次の新作が出ないまま早2年弱(※記事初公開当時)。完全新作サンムーンがORASと同じ大森ディレクターという発表もあった今こそ、改めて見なおしてみよう。
エピソードデルタとはなんだったのか、このシナリオに課せられたいくつもの課題を混在させたままでは語れないため、大きくわけて「エメラルドバージョン要素の補完」「通信で繋がる最古のソフトRSとの一巡した関係」「メガシンカに絡む謎を追うXYの補完」の3つを個別に検証していき、最後に外因を考慮したエピソードデルタのシナリオを再考察する。
これは『ポケットモンスター ルビー・サファイア(RS)』と『オメガルビー・アルファサファイア(ORAS)』の相違点の改変意図を汲み取り、咀嚼しながら、心穏やかにそれらを解釈するための考察記事。
ポケモンシリーズはゲーム世界とプレイヤーの現実世界が融け合って繋がっているのが魅力の一つになっていると同時に、考察するにあたってメタ階層の違いを混同しがちでもある。
リメイク自体が未だ3世代分しか実例がないため、パターンというものが存在するわけではないが、『金銀』→『HGSS』でほぼ『クリスタル』要素を回収できているのと比較すると、『RS』→『ORAS』での『エメラルド』要素が多く取りこぼされているのが目立つ。
・エントリーコール
『エメラルド』ではアクア団マグマ団双方敵として戦うことになるが、マグマ団の野望はシナリオ前半(えんとつ山)で砕いてしまう。後半、自暴自棄になったリーダーがトクサネ宇宙センターのロケットを用いてテロを企てる展開がMC版には加えられている。これが「デルタ」にて、『OR』ではマグマ団幹部カガリ、『AS』ではアクア団幹部ウシオが暴走する形で再現された。
ちなみに本編シナリオ中のNPCとのタッグバトルは『エメラルド』のこのイベントがポケモン史上初。戦闘開始時 味方のダイゴのグラフィック・投球モーションが見られる貴重なイベントであるため、当時のファンは盛り上がった。
『エメラルド』ではミクリがレックウザが頂上で待つ「そらのはしら」の扉を管理している。「デルタ」では「ルネの民」という設定が加えられ、師匠(恐らくアダン)から役目を受け継いだと語られる。
また、「デルタ」のエピローグで、ダイゴがチャンピオンの役目を降り、ミクリにいつかその座を託そうと考えていることが示唆される。『エメラルド』でミクリがチャンピオンとなっている理由の補完を兼ねたファンサービスといえるだろう。ちなみに『エメラルド』でルネジムのリーダーを代理で任された彼の師匠アダンは、『ORAS』に登場することはなかった。
『ORAS』ではミツル戦のBGMタイトルが”ライバルのテーマ”と命名されており、作り手側がライバルポジションを明確に意識したと伺える。新曲に聞こえるが、『RS』シダケタウンのテーマから『ORAS』でミツルのテーマ曲がアレンジで作られ、そこからさらに戦闘曲としてアレンジされた、オリジナルにルーツがある曲になっている。
そういった改変はリメイクならではの”ブラッシュアップ”であり、作り手とプレイヤー共に望んでいた"補完"の一つの形なのではないだろうか。
そういった改変はリメイクならではの”ブラッシュアップ”であり、作り手とプレイヤー共に望んでいた"補完"の一つの形なのではないだろうか。
『ORAS』本編の感動的な締めくくりから 間を空けず始まるクリア後エピソード「デルタ」。『RS』の更新、補完の範疇から外れた全く新しいストーリーである。発売当初その内容は賛否両論と言われており、先日(※発売から2年後)改めてアンケートで問うたところ、以下のような結果となった。
オメガルビー・アルファサファイア「エピソードデルタ」に関するアンケート
— たかさおじさん (@ikiro_pkmn) July 5, 2016
最新のソフトは常に賛否あり、世代を重ねていくごとにファンの間では馴染んできたが、次の新作が出ないまま早2年弱(※記事初公開当時)。完全新作サンムーンがORASと同じ大森ディレクターという発表もあった今こそ、改めて見なおしてみよう。
エピソードデルタとはなんだったのか、このシナリオに課せられたいくつもの課題を混在させたままでは語れないため、大きくわけて「エメラルドバージョン要素の補完」「通信で繋がる最古のソフトRSとの一巡した関係」「メガシンカに絡む謎を追うXYの補完」の3つを個別に検証していき、最後に外因を考慮したエピソードデルタのシナリオを再考察する。
これは『ポケットモンスター ルビー・サファイア(RS)』と『オメガルビー・アルファサファイア(ORAS)』の相違点の改変意図を汲み取り、咀嚼しながら、心穏やかにそれらを解釈するための考察記事。
ポケモンシリーズはゲーム世界とプレイヤーの現実世界が融け合って繋がっているのが魅力の一つになっていると同時に、考察するにあたってメタ階層の違いを混同しがちでもある。
- 劇中の主人公視点のシナリオの世界観となるNPCの台詞やテキスト
- プレイヤー視点で語るゲームデザインの仕様及びNPCのメタ発言
- パロディ表現や旧作プレイヤー向けファンサービスとしてのメタ発言
- 制作上の都合や元ネタ・モチーフに言及したり、タイアップ・広告宣伝に関わる情報
など、色分けを試みている。どのように有効なのかわからない実験段階なのでまだあまり気にしないでほしい。様々なメタレベルの情報を区別して、メタ階層を混在させたままの強引な解釈は避ける「インドぞうを深追いしない」がモットー。アニメ・ポケSPなどよる設定・解釈は参考にしつつ根拠としてはとりあげない。
1.『エメラルド』バージョン要素の補完
リメイク作品での”マイナーチェンジ版”の扱い
「エピソードデルタ」は、カイオーガ・グラードンに次ぐホウエン地方の伝説のポケモン・レックウザを主軸にした追加シナリオである。
同じくレックウザをパッケージに飾る『エメラルド』バージョンとの共通点も多く、それを意識した箇所が多く見られる。まず、エメラルドを含むこれまでの”第三のソフト”の系譜と、過去のリメイク作における”第三のソフト”の要素の影響を洗い出してみよう。
ポケモンは「完全新作」として毎回2タイトル同時発売するのが恒例で、リメイク時もそれに準じている。かつては1,2年の間を開け”第三のソフト”を出すのも恒例とされ、それらの新作ソフトは「完全新作」と区別するため、「マイナーチェンジ(MC)版」と呼称されてきた。
ポケモンは「完全新作」として毎回2タイトル同時発売するのが恒例で、リメイク時もそれに準じている。かつては1,2年の間を開け”第三のソフト”を出すのも恒例とされ、それらの新作ソフトは「完全新作」と区別するため、「マイナーチェンジ(MC)版」と呼称されてきた。
『赤緑』に対し『青』、『ルビー・サファイア』に対し『エメラルド』など、ファンが「3本めが出るでしょ」と予測できるパターンもあれば、『金・銀』ときて銅ではなく『クリスタル』、『ブラック・ホワイト』でMCはなく「続編」が2タイトル出たり、『X・Y』からはついにZが出ないまま次の「完全新作」が発表されるなど、制作者側は予定調和感を避けたい傾向が強いようである。
またこれまでの3例ではMC版のリメイク作を出したことはなく、MC版独自の要素はオリジナル版のリメイク2本に集約されたり、次世代の基礎要素となることがある。
またこれまでの3例ではMC版のリメイク作を出したことはなく、MC版独自の要素はオリジナル版のリメイク2本に集約されたり、次世代の基礎要素となることがある。
各世代の完全新作、MC版の新要素、リメイク版でのMC版要素の扱いを簡潔にまとめた。図鑑ナンバーの扱いや通信に関しては過去記事ORASのシナリオ考察 1 図鑑と通信 にまとめているのであわせて参照して欲しい。
G1(Generation1=第1世代)・完全新作…『赤・緑』(96年)
・MC…『青』(97年) 1年後ポケモンのグラフィック変更
入手ポケモン・出現率変更(以降のMCで共通)…『ピカチュウ』(98年) 2年後アニメ版のシナリオを意識して一部イベント再編ピカチュウが後ろから付いてくる ポケットプリンタ対応・リメイク:G3…『ファイヤレッド・リーフグリーン』(04年)2世代8年後 (以下『FR・LG』)赤緑に忠実でMC版要素はパッケージがエンディングで登場したのみクリア後は続編といえる金銀への伏線となるシナリオが中心『ピカチュウ』のような連れ歩きは無い(後にG4のHGSSで実現)海外でG1は『緑』は発売されず『Red/Blue』の組み合わせだが、リメイクは日本同様『FR・LG』の組み合わせとなった
G2・完全新作…金・銀(99年)GAMEBOY・COLOR共通・MC…クリスタル(00年)2年後 GAMEBOY COLOR専用準伝説と呼ばれる枠のスイクンを中心に据えたシナリオに変更。女の子主人公追加→次世代以降の基本に。ポケモンのグラフィックがアニメーションするようにモバイルアダプタ対応で、携帯電話を介して交換が可能に。戦闘やりこみ施設バトルタワー初登場。・リメイク:G4…ハートゴールド・ソウルシルバー(09年)2世代10年後 (以下『HGSS』)『金銀』を基本とし『クリスタル』の追加シナリオもクリア後にまたいで追加女の子主人公他一部のキャラデザは大胆にアレンジ。モバイルアダプタからはwifi通信でネット交換、対戦へと発展している。Pt登場のバトルフロンティアをそのまま引き継いでいる。※ポケットピカチュウの進化版ポケウォーカーも同梱※G1ピカ版の連れ歩きを全種で再現
G3・完全新作…ルビー・サファイア(02年)・MC版…エメラルド(04年)2年後第三の禁止級伝説枠レックウザを中心に据えたシナリオに変更。主人公衣装デザイン変更。ルネジムリーダーがアダン、チャンピオンはミクリに変更。ポケナビのエントリーコールによりジムリーダー再戦が可能にバトルタワーの発展施設バトルフロンティアが初実装。・リメイク:G6…オメガルビー・アルファサファイア(14年)3世代12年後MC版シナリオは形を変え「エピソードデルタ」内に散りばめられる。XYのような衣装着替えはなし、エメラルド版衣装も実装なし。アダン登場なし チャンピオン交代の予感は示唆された。ジムリーダー再戦はなし。エントリーコールは機能実装前。バトルフロンティアは建設前として名前を出すのみリメイク作として初めてオリジナルと間接的に繋がり、オリジナル版からポケモンの個体を移動すると賞状がもらえる。
リメイク自体が未だ3世代分しか実例がないため、パターンというものが存在するわけではないが、『金銀』→『HGSS』でほぼ『クリスタル』要素を回収できているのと比較すると、『RS』→『ORAS』での『エメラルド』要素が多く取りこぼされているのが目立つ。
シナリオに関しては、クリスタルの主役が準伝説枠であるスイクンであったために少しの改変でホウオウ・ルギアメインのオリジナルシナリオと両立できたのに対し、エメラルドのレックウザ活躍はRSのグラードン・カイオーガの活躍と競合するので両立できないのも大きい。(これは恐らく次にくるであろうDPリメイクにおけるPt要素の扱いに関しても同様だろう)
そのためRS同様クリア後にレックウザと出会う形で、エメラルドの要素をORAS殿堂入り後シナリオに盛り込んだと考える。
エピソードデルタの中の『エメラルド』要素
・エントリーコール
『RS』に登場する「マルチナビ」はトレーナーアイを搭載しているが、『エメラルド』ではエントリーコールという機能に置き換わっていた。対戦したトレーナーのプロフィールが見られるトレーナーアイに、金銀のポケギアのように通話機能が付け加えられたものである。これによりトレーナーから再戦申し込みなどがくることもあった。『ORAS』ではトレーナーアイで一般トレーナーの再戦は確認できるが、『エメラルド』のようにジムリーダーとの再戦はできなかった。
エピソードデルタでは『エントリーコール バージョン0.09』が搭載されており、ダイゴからの通話を一方的に受けられるようになっている。開発途中の機能としてこちらからのコールはかけられない。
エピソードデルタでは『エントリーコール バージョン0.09』が搭載されており、ダイゴからの通話を一方的に受けられるようになっている。開発途中の機能としてこちらからのコールはかけられない。
ちなみにトレーナーアイに記載されたダイゴの自己紹介「結局ボクが一番強くて
すごいんだよね」は「エピソードデルタ」後の強化ダイゴを倒すと「結局きみが一番強くて
すごいんだね!」に変わる。『エメラルド』では「めずらしい いしのためなら
たきだって のぼっていくよ」であった。
・宇宙センターでのダイゴとのタッグバトル
ちなみに本編シナリオ中のNPCとのタッグバトルは『エメラルド』のこのイベントがポケモン史上初。戦闘開始時 味方のダイゴのグラフィック・投球モーションが見られる貴重なイベントであるため、当時のファンは盛り上がった。
『ORAS』では、先にみなみのことうで既に一度タッグを組んでいるのでやや感動は薄い。
・チャンピオン・ミクリ
そらのはしらに立ち入るための儀式として”ルネの民のミクリ”という肩書で戦闘イベント。
手持ちポケモンがエメラルドチャンピオンと同じで、台詞もそれが意識されている。
・ホウエンの危機を救うレックウザ
『エメラルド』ではレックウザがグラードンとカイオーガの争いを止めるため、ルネシティに降臨する。「デルタ」ではホウエンに落下する巨大隕石を破壊するために成層圏へ飛立つ。いずれもそらのはしら頂上がファーストコンタクトとなる。
「デルタ」では新キャラクター”ヒガナ”がグラードン/カイオーガを目覚めさせることによりレックウザを呼びだそうと画策していたことが明かされ、『エメラルド』でのレックウザ降臨方法を試そうとしていた節もある。
『ORAS』そらのはしら内部のBGMは、『エメラルド』のイベント専用曲『レックウザ光臨!』がアレンジされて使われている。増田プロデューサー作曲。
「デルタ」ではレックウザをメガシンカさせることが危機を脱するキーとなっている。それはメタ的な事情として『ORAS』がメガシンカ初登場の『XY』の次作であるため盛り込まれた要素だ。そしてホウエン地方を舞台とした物語の、リメイク以前と以後の最大の差である。
リメイク時に漢字版追加を除いて大きくポケモン図鑑の説明文章が改変されたのは『ORAS』のグラードン・カイオーガ・レックウザのみである。レックウザの生態に「エピソードデルタ」を成立させるための新たな描写が加えられている。
『ORAS』そらのはしら内部のBGMは、『エメラルド』のイベント専用曲『レックウザ光臨!』がアレンジされて使われている。増田プロデューサー作曲。
「デルタ」ではレックウザをメガシンカさせることが危機を脱するキーとなっている。それはメタ的な事情として『ORAS』がメガシンカ初登場の『XY』の次作であるため盛り込まれた要素だ。そしてホウエン地方を舞台とした物語の、リメイク以前と以後の最大の差である。
リメイク時に漢字版追加を除いて大きくポケモン図鑑の説明文章が改変されたのは『ORAS』のグラードン・カイオーガ・レックウザのみである。レックウザの生態に「エピソードデルタ」を成立させるための新たな描写が加えられている。
ルビー なんおくねんも オゾンそうの なかを とびつづけけっして ちじょうには おりてこない ポケモン。くうきちゅうの チリと みずを たべるらしい。
サファイア なんおくねんも いきつづけていると いわれる。くもの うえに ひろがる オゾンそうの なかをとんでいるため だれも はっけん できなかった。
エメラルド オゾンそうを とびつづけている ポケモン。カイオーガと グラードンが たたかうとちじょうに おりてくると いわれている。
オメガルビー 何億年も 生き続けていると いわれる。グラードンと カイオーガの 争いを 治めたという 伝説が 残されている。
アルファサファイア
オゾン層を 飛び続け エサとなる 隕石を 食らう。体内に たまった 隕石の エネルギーで メガシンカする。
・戦闘!デオキシス
エメラルド発売直前 2004年7月公開 |
デルタでは巨大隕石を撃破したレックウザと主人公を待ち受けるラスボスで、これまで期間限定とされていた幻のポケモンが、恒常で入手可能になるのは初となった。また劇場版アニメ『裂空の訪問者
デオキシス』でのレックウザvsデオキシスの対立を思い出させるイベントでもある。
レックウザvsデオキシスは、前回述べた”オゾン層≒地球の生態系の遺伝子を宇宙の脅威から守る守護神”というレックウザのモチーフの推測からするとRS開発時点から構想されていた対立構造なのではないかと思わないでもない(これは想像)。
旧ホウエン図鑑ではラストのNo.202となっており、『RS』発売の時点ではフォルムチェンジも用意されていない。当初は『FRLG』カントー地方のポケモンとしてではなく、『RS』開発の新ポケモンの構想の中に含まれていたであろうことが伺える。
『FRLG』のたんじょうのしまでは動く謎の三角形の物体を最短距離で追いかけると爆発し、デオキシスが登場する。「デルタ」では破壊された巨大隕石の中に同様の三角形の物体が出現しFRLGと全く同じ軌跡を描いた後爆発し、デオキシスが登場する。
南鳥島 Wikimedia Commons |
たんじょうのしまの三角形の物体は『ORAS』の大森ディレクターが担当した仕掛けだそう。「エピソードデルタ」というタイトルからして三角形にかけるこだわりは相当なものだろう。「たんじょうのしま」のマップも三角形をしており、実際に三角の形をした島『南鳥島(東京都・日本最東端)』がモデルと言われている。
以上、「エピソードデルタ」に見られる『エメラルド』要素をあげてみた。他にも『エメラルド』といえば「カイオーガとグラードンの衝突」など様々な目玉イベントがあったが、オリジナルである『ルビー・サファイア』のシナリオと競合するものは採用できなかったと考える。
「バトルフロンティア」がなかったことは個人的にも残念だがここでは触れないでおく。 |
「エピソードデルタ」のプロットを組み立てる上で、ここまであげた”『エメラルド』要素”を意識してシナリオを仕上げたと見て間違いはないだろう。ファンサービスであると同時に、『エメラルド』を産んだ制作者達自身の思い入れを込めた内容だと思う。
2.『RS』から”一巡”したストーリーと並行世界
似て非なる別の世界とは
「エピソードデルタ」の中でも特にファンをざわつかせた話題のひとつに、作中で”並行世界”について言及した点があげられる。リメイク前の『RS』のホウエン地方と今作『ORAS』のホウエン地方は並行世界=パラレルワールドとして双方存在している…これまでもファンの間の解釈として言い表してきた内容である。以下デルタのヒガナの台詞より抜粋。
メガシンカのメカニズムによって引き起こされる世界の揺らぎ
この世界とは似て非なる別の世界の観測……そして確定……
そう わたしたちが住むホウエンとほとんど同じ そこに生きる人もポケモンも
そう 例えばちょっとだけ進化の道筋が違う メガシンカが存在しない世界……
3000年前にあの戦争が起こらず 最終兵器も作られなかった
そんな世界のホウエン……
メガシンカ可能なホウエン地方と、不可能なホウエン地方が存在し、その差は3000年前のカロス地方における戦争と最終兵器の有無で分岐した違いと読み取れる。それは実際にメガシンカというシステムがまだなかったころのG3『RS』というソフトとメガシンカというシステムが採用されたあとのG6『ORAS』そのものの違いとして現れているものだ。
『RS』で入手したポケモンの個体(ID,ステータス)を引き継ぐことが可能なリメイク後の『ORAS』だからこそ発生しうる”開発上の一巡問題”であり、メタ事情を説明する世界観設定が「この世界とは似て非なる別の世界」という概念なのだろう。(『RS』で殿堂入りしたジュカインは『ORAS』で似て非なる冒険を繰り返し得てしまう)
並行世界について言及したのはヒガナだけではない。エピソードデルタを終えたあと向かう事となるバトルリゾートにおいて非敵対組織のリーダーが話すのは、自分たちこそが伝説のポケモンを目覚めさせ世界を危機に陥れていた可能性について。それはまさにオメガルビーとアルファサファイアという2つのソフトの関係を示している。プレイヤーがどちらのソフトを購入しプレイするのか、それが既にゲーム中の登場人物たちの運命に影響を及ぼしている。
(2021/09追記)
G2『金銀クリスタル』では、G1『赤緑青ピカ』から3年後のカントー地方を冒険することができる。そしてG1からG2へポケモンを送る、交換することが可能だ。G2からG1へ3年前見つからなかった新種のポケモンやどうぐを送れないように「タイムマシン」を使用して交換するのである。まさに「3年の時を超えてやってきた」風に見える。
ただし、赤緑でプレイした主人公名がなんであろうと、金銀のゲームに登場するラスボス・前作主人公の名前は「レッド」である。赤緑でライバルにどんな名をつけようと、金銀のオーキドの孫であるトキワジムリーダーの名前は「グリーン」である。
これまでのシリーズにおける並行世界の概念
ポケモンを同じ地方にソフトや世代をまたいで移動した例はORASが初めてではない。・『赤緑』→『金銀』と『BW』→『BW2』
ただし、赤緑でプレイした主人公名がなんであろうと、金銀のゲームに登場するラスボス・前作主人公の名前は「レッド」である。赤緑でライバルにどんな名をつけようと、金銀のオーキドの孫であるトキワジムリーダーの名前は「グリーン」である。
ゲームの主人公名はプレイヤーの任意であり、赤バージョンの取扱説明書に描いてあるように(あるいは漫画ポケスペに倣って)主人公をレッド、ライバルをグリーンと名付けない限り…否、例え同じとしても交換によって繋がった『赤緑』と『金銀』は完全に3年後の同じ世界とは言い切れない。赤緑のプレイヤーは金銀でシロガネ山で逢ったマサラタウン出身の殿堂入りトレーナーを過去の自分とは思わず、得体のしれない誰か…レッドさん、と呼ぶだろう。
ちなみに『FRLG』→『HGSS』も3年後のカントーとして接続可能だが、相互の交換ではなく「パルパーク」を通じて一方的に『HGSS』へ送ることのみ可能である。さらに『FRLG』は女の子主人公を選択可能で、そちらを選んだ場合は完全に別の並行世界と認識されるだろう。
ちなみに『FRLG』→『HGSS』も3年後のカントーとして接続可能だが、相互の交換ではなく「パルパーク」を通じて一方的に『HGSS』へ送ることのみ可能である。さらに『FRLG』は女の子主人公を選択可能で、そちらを選んだ場合は完全に別の並行世界と認識されるだろう。
BW2おもいでリンク |
G5の『ブラック・ホワイト(BW)』と『ブラック2・ホワイト2(BW2)』というソフトは2年後のイッシュ地方という、G1→G2と似た構造を持つ。世代を超えてはいないため通信交換は通常どおり『BW』と『BW2』で相互に行うことが可能である。さらに特殊な点が「おもいでリンク」という新機能で『BW』のセーブデータを『BW2』のセーブデータへリンクさせることが可能だ。例えば『BW2』のNPCが前作主人公に言及する際、リンクした『BW』での名前が反映されたりする。これによりBWとBW2は完全に2年後の同じ世界とすることが可能になった。B→W2でもおもいでリンクは可能だが、登場人物の選択や言動などが一致するためB→B2のように色を揃えるとより完全さが増す。
このように、ソフトをまたぐ時、完全に同じ世界として繋がりうること自体が稀なことで、『RS』から『ORAS』へ移動してきたポケモン達がいくつもの並行世界を渡り歩いていることは、メガシンカうんぬんを抜いても理解できるだろう。
・DPtの時空論、世界創造の話
ポケモンにおいて"世界"というと外せないのが「アルセウスが世界のすべてを生み出した」に代表されるシンオウ神話。以下は『プラチナ』に登場するNPC、神話について探求しテンガン山周囲を巡っていた「てつがくしゃ」の台詞である。世界の始まりとは 人に心が芽生えた瞬間だと考えているんですこれは物理的な宇宙の始まりなどではなく、制作者達から哲学の観点から解釈したシンオウ神話として示された、アルセウスが世界を作ったという内部設定の秘密の一端なのであろう。
そう!心が生まれて 世界を認識し始めた!(中略)
そうなると世界を創ったというポケモンは 心の現れとも考えられるのかなー!?
ふむふむ…心が芽生えて世界ができた……心が育って時間 空間が生まれた……
(中略)
心が豊かになるほどに 世界が広がっていく神話!
アルセウスという 絶対的な存在から始まる物語!
"世界"とは認識で生まれるもの、たとえばレッドがチャンピオンとなった『金銀』は自分の遊んだ『赤緑』とちょっと異なる世界だな、『BW』と『BW2』はリンクすると同じ世界だな、と感じる我々プレイヤーの"心"が既にそれを物語っているのではないだろうか。『BW』でシロナがギラティナと出会ったと語ることで、シロナとギラティナに立ち向かった『プラチナ』が『BW』に繋がる歴史≒正史であるというファンの解釈が存在してきたように、『ダイヤモンド・パール(DP)』は『プラチナ』と違う可能性の世界だと、区別がなされてきた。逆に言うと細かな矛盾に気が付かなければ同じ世界として"認識”したままだ。
『RS』と『ORAS』は別世界というメタ発言「似て非なる別の世界の観測……そして確定……」は文字通り、プレイヤーによるなんか違うなという差異の認識そのものを指し、システム的にもメガシンカの有無という大きな差異が生じたため、作中で言及するに至ったと思われる。
シンオウ神話の哲学を我々のゲームプレイ体験に適応すると、ゲームソフトの中に世界があるというよりは、プレイヤーの頭の中に世界が生まれていると言える。ゲーム制作者が込めた世界観がただの電子基板を通して0と1だけの情報から我々に伝わっている。文章や映像で描かれた世界は表層で、それを通じて我々の心の中に生まれた、ゲームプレイヤー1人ひとり、ソフトごと、異なる選択をしたプレイ周回ごとに違う世界が生まれている…それを体現したシステムこそ初代から存在するトレーナーのIDナンバーかもしれない。
GBA通信ケーブル Wikimediacommons |
それぞれのソフトが通信ケーブルやwifi、インターネットを通じて交わる時、"IDナンバーの違い"でお互いを異なるトレーナー、そして同じソフトであってもちょっと違う世界にきたんだなということを認識してきた。我々はデルタで言及されるもっと前から、異なる世界が共存してきたことを肌で感じてきたに違いない。
SF風の解釈、”次元移転装置”を『通信ケーブル』と名づけてみせたのも並行世界どうしを繋いできた『RS』時代のそれを意識したためだろう。
『ORAS』は"メガシンカ"を我々が認識することで大きく揺らいだ新たなホウエン地方の物語か。
・『BW』のハイリンクと世界
ソフトごとに存在する世界をより具体的に表現したのが『BW』の「ハイリンク」である。イッシュ地方中央にある謎の領域で、”誰かの世界”への架け橋を渡ることで近くにいるプレイヤーのソフトに侵入することができる。その際主人公は別の姿に変わって行動するが、他人の目から見た自分と、自分が思う自分の姿が異なる事を表現していると思われる。時々ポケモンの姿に変わることもあり、これはまるで『DP』シンオウ神話における「昔は人もポケモンもおなじだった」という記述そのものかもしれない。古くは『FRLG』からのユニオンルーム、『XY』からのPSSなど、アイコンの段階では主人公の他人からの見た目が違うのも、わかりやすさというゲームのデザインの他に、世界の違いは人の心の認識の違いという哲学が根底にありそうに思える。(後年アイコンは選べるようになったけど)・パラレルワールドと時系列
並行世界の揺らぎの大きさについて、整理する。まずポケモンのパラメーターで確認することができる「出会った場所」の表記を見る。
G3→G4 ○○地方からやってきた (『HGSS』『DPt』間でも同様)ゲームの容量・管理的な都合で各ソフト固有の細かい地名までは持ち越せない理由もあるのだろうが、『RS』のホウエン地方から『ORAS』のホウエン地方へポケモンを連れてきた時のギャップを"時空を超えて"きたという脳内処理で”納得”を与えようとしているようにも見える。時間と空間は『DP』のキーワードでもあり唐突な言葉でもない。なにも言われず変だなーと違和感を感じるままよりはよっぽど配慮の効いた表記だろう。
G3→G5 ○○地方からながいときをこえてやってきたようだ
G5以前→G6 ○○地方から時間と空間をこえてはるばるやってきたようだ
通信ケーブルやwifiを通じて交換した相手は、限りなく同じだが違う可能性の並行世界、
ときをこえて繋がっていた世界は、同一の世界あるいはゆるやかに繋がった並行世界、
時間と空間をこえて繋がった世界は、メガシンカの有無など、ひとつのソフトの中では成し得ない、つまり開発側が再設定(リメイク)した遠い可能性の並行世界、としよう。
・"時系列"という概念について
赤緑≒RS→金銀≒DPPt→BW→BW2≒XYこれはORASが出る前に示された開発関係者のヒントだ。今は消えているため、最新の設定を推測する根拠としてほしくない意図もあるのだろう。それも考慮し、あくまでヒントとして参考にしよう。
G3~G5は「ながいとき」という時間軸でゆるやかに繋がっているとして良いだろう。『XY』もその延長上にあるとされていたが、エピソードデルタを見る限りそれは思いとどまったほうが良さそうだ。
しかしそうなるとメガシンカについてプラターヌ博士の発言や『XY』発売直後までの謳い文句であった「カロス地方でしか確認されていない現象」と先にホウエン地方で普通に使われている『ORAS』の間に矛盾が生じてしまう。設定ミス若しくは『XY』もまた『ORAS』と繋がらない別の時系列と考える他ないだろう。
この矛盾は全くフォローがないが、何か理由付けして解釈する必要も感じないので、現状はミスまたはあえて無視されているとして受け取り、考えない前提で進めたい。
ポケモンの個体移動可能な ゆるやかに繋がる世界ごとに時系列を整理したのが以下だ。
時系列1:赤緑→(タイムマシン:3年)→金銀
時系列2:RS≒FRLG→(3年)→HGSS≒DPt→BW→(2年)→BW2
時系列3:ORAS→(FRLG〜BWのような歴史が展開されうる)→XY
ORAS内で多く見られる「12年前」というキーワードが、RSをプレイしたファンへのサービスとしてのメタ発言か、実際に設定としてRSとORASで12年のズレがあるのか、定かではない。ただ可能性や細部が違うだけで『ORAS』→『XY』の時間の流れは『RS』→『BW2』のものと似ていると、現時点で解釈して構わないだろう。詳細な考察はここでは避けたい。
この矛盾は全くフォローがないが、何か理由付けして解釈する必要も感じないので、現状はミスまたはあえて無視されているとして受け取り、考えない前提で進めたい。
ポケモンの個体移動可能な ゆるやかに繋がる世界ごとに時系列を整理したのが以下だ。
時系列1:赤緑→(タイムマシン:3年)→金銀
時系列2:RS≒FRLG→(3年)→HGSS≒DPt→BW→(2年)→BW2
時系列3:ORAS→(FRLG〜BWのような歴史が展開されうる)→XY
ORAS内で多く見られる「12年前」というキーワードが、RSをプレイしたファンへのサービスとしてのメタ発言か、実際に設定としてRSとORASで12年のズレがあるのか、定かではない。ただ可能性や細部が違うだけで『ORAS』→『XY』の時間の流れは『RS』→『BW2』のものと似ていると、現時点で解釈して構わないだろう。詳細な考察はここでは避けたい。
完全孤立したG1『赤緑青ピカ』も3DSのバーチャルコンソールで配信され、G7サンムーンへポケバンクを通じて連れて行くことが可能とされている。ゲームボーイ版と直接通信することは叶わないが、初代の世界が現世代と間接的に「時間と空間をこえて」繋がれることを示したと言える。G1『赤緑』がG3『FRLG』と断絶しつつVCで間接的に繋がることが決まった今、エピソードデルタで『ORAS』と『RS』の関係は時空を超えた並行世界であることを示す必要があったと考えるべきだろう。(VC『赤緑』と通信できるVC『金銀』が待たれる ※後年出ました)
"パラレルワールド"は 世にある作品の多くで過去の関連作品との関係を一切考えないでいいという制作側の免罪符としても使われている。シリーズコンテンツのファンがこの言葉に敏感なのはそのためでもある。
「エピソードデルタ」、ひいてはポケモンシリーズでは、そのような安易な使い方ではなく、『DP』の神話・哲学の頃からかなり攻めた解釈として取り込んでおり、またシリーズ通して決してブレた概念ではないと言えるし、寧ろ過去シリーズとの繋がりをここまで大事にしてきてくれたコンテンツはそう無いだろう。
いずれ訪れるであろう『ダイヤモンド・パール』のリメイクに向け「時空」という題材でどう展開するか、楽しみなキーワードの一つとしてあげておきたい。そして、『XY』/『ORAS』から『サンムーン』へポケモンを移動した時の表記がどうなるか、その点も注目したい。
3.『XY』から登場したシステム”メガシンカ”の補足
メガシンカとは、ポケモンに持たせたメガストーンと、トレーナーが持つキーストーンを介して、人との絆の力がポケモンに作用することで姿や能力が変化する、新たな進化の形とされている。ORASは「メガシンカの謎に迫る新たな冒険」という煽りで宣伝され「その起源や事象には、未だ多くの謎が残されている」とされてきた。それに対する答えをエピソードデルタに用意したという意図だろう。前2つの「(ゲンシカイキに対抗する)エメラルド要素としてのレックウザの活躍」「RSと似て非なるORASという世界の最大の差異」もこのメガシンカが重要なキーとされている。G6のXYから登場したこのメガシンカとは一体何なのかを見ていく。メガシンカの起源
起源はレックウザ
エピソードデルタで示されたメガシンカの謎≒起源の謎は、シナリオ終盤にそらのはしら壁画に描かれた内容を伝承者ヒガナが語る形で明かされる…前に 流星の民のババ様があっさりとそして簡潔にわかりやすく話してしまう。
流星の民ババ様「うむ まさにその通り
『ポケモン』と『力を持った石』『人々』の結びつき……
そうしてポケモンが新たな姿に変わる現象を
後の時代の人間たちが メガシンカと名付けたんじゃ」
ダイゴ「メガシンカのメカニズムは人類とレックウザの出会いによって発見されたものだったのか……」
上図は"そらのはしら"壁画をつないだもの。作中で壁画の下部から解説されていく都合上、画像内の文章は下から順に時系列が進んでいる。要約すると
・原始の時代から、自然のエネルギーを巡ってグラードンとカイオーガが争っている
・千年前に落ちた隕石の中にあった"七色の巨石"≒キーストーンと、人々の祈りにより、レックウザの姿が変化し、ゲンシグラードンとカイオーガの争いを収めた
・現代ホウエンに落下する隕石の予言はこの壁画の伝承を根拠にしている らしい。
メガストーンの正体
えんとつ山でアオギリ・マツブサが、その"いんせき"に手を加えている。
こいつにはな ある条件で 様々な種類に変化する特徴があるのさ(AS)
星のコアに眠る爆発的なエネルギーと この いんせきをマージさせれば…合成宝石の生成には地殻内と同じ圧力をかけた加熱処理が必要だそうだ。
ある条件を満たすと いんせきの特性は変化する
たとえば メガストーンへと… たとえば キーストーンへと…(OR)
アオギリ・マツブサが えんとつ山で作動させていた"いんせき"の加工装置は、そういった原理と同様なのかもしれない。ルビー・サファイアへは酸化アルミニウムの結晶にわずかに含まれる金属の成分の違いで分岐する。"いんせき"は理論上、べにいろのたまにも、あいいろのたまにも分岐する可能性を秘めていたのかもしれない。
デルタの演出のため、RSにあったソライシ博士へのいんせき返還イベントが無くなった。
XYで示されていた起源説
メガシンカが初登場したXYではプラターヌ博士によってこう示唆されている。
そもそもメガストーンとは なんだろう? これは ボクの 推測だけど
3000年前 撃ちだされた最終兵器の光……
伝説ポケモン ゼルネアス(イベルタル)のパワーを浴びた特殊な石
それが メガストーンだとおもう
もしかしたら ほのおのいし などが 変化したのかも しれないね……
"いんせき"がメガストーンに変化したというのが、ORASで示された新たな情報だ。
マグマ・アクア団が試みたのは自然エネルギーによる変化だが、プラターヌの仮説では最終兵器の光、ゼルネアス/イベルタルのパワーが原因とされている。
カロス地方でしか確認されていない現象「メガシンカ」という説明との整合性については説明がないが、メガストーンとキーストーンによる世界で初めての1:1のメガシンカがカロス地方のメガルカリオ(マスタータワーで奉られている)ということなのだろう。これはホウエンで千年前目撃されたメガレックウザのメカニズムを基に研究を進めた成果であり、メガシンカと名付けられたのはカロスでの例が初めてと言えるのかもしれない。
マグマ・アクア団が試みたのは自然エネルギーによる変化だが、プラターヌの仮説では最終兵器の光、ゼルネアス/イベルタルのパワーが原因とされている。
最終兵器との関係
メガシンカが存在しない世界…
3000年前にあの戦争が起こらず 最終兵器も作られなかったそんな世界
ヒガナがこの関係を前提にして話すのが謎だが、そらのはしらの壁画及び流星の民の伝承でもメガレックウザ登場が3000年前の戦争以降であるように、そしてその現場にAZと思われる男が関わっていた事も合わせ、戦争に使われた最終兵器とメガシンカの現象には因果関係が設定されていると思われる。
最終兵器とプロジェクトAZOTH
最終兵器について
『XY』に登場した古代遺跡地下に眠っていた巨大なレーザー射出装置である。3000年前のカロス地方の王"AZ"が、戦死した最愛のポケモン・フラエッテを生き返させるための装置として発明したが、後に兵器転用し圧倒的火力で戦争を終わらせた。兵器の光には永遠の命を得るという副作用があり、AZ及び彼のフラエッテは3000年の時を今も生き続けている。
この装置の動力源として数多のポケモンの生贄が必要で、巨大な列石に繋ぎ生体エネルギーを取り込んでいた。加えて伝説のせいめいポケモン・ゼルネアス若しくは、はかいポケモン・イベルタルの力が不可欠のようだが、どちらの場合でもフラダリに破壊目的で使用された。
∞エナジーについて
∞エナジーについて
今作「エピソードデルタ」ではデボンコーポレーションが最終兵器の動力源としているポケモンの生体エネルギーを研究、発展させ∞(ムゲンダイ)エナジーを考案したと明かされる。人とポケモンに役立てるという理念のもと、潜水艇エンジンから宇宙ロケットなど多岐にわたりホウエンの人々の暮らしに貢献している。このエネルギー資源の存在は、ORASのシナリオ考察 3 キンセツ関連
で触れた通り、競合企業ダイキンセツホールディングスが没落した要因でもある。現在もポケモンの犠牲によって成り立っているのかは明言されていない。
プロジェクトAZOTHについて
ORAS本編中で悪の組織が企てていた計画のことで、オリジナルのRSにはない要素。ORASのシナリオ考察 2 マグマ団アクア団 で触れなかったが、マグマ/アクア団が狙っていた"書類"、"デボンのにもつ”は、∞エナジーに関するもの、それを利用した潜水艇のエンジンだった、という改変が加えれている。グラードン/カイオーガの眠る海底洞窟の封印を最終兵器の技術を転用したドリル兵器で解き、目醒させるというのが計画の内容だ。
プロジェクト名の「AZOTH(アゾット)」とは錬金術の用語で、アルファベットのはじまりの文字"A"と、ラテン文字・ギリシャ文字・ヘブライ文字のおわりの文字"Z・Ω(O)・ת(th)"を合わせたものという解釈がある。ORASがタイトルで関しているαにしてΩと同様、始まりであり終わり、全て、永遠を意味する。マツブサ/アオギリの「世界におわりの始まりをもたらす/はじまりに還す」という意志から名付けられたのだろう。封印を貫く剣(ドリルだが)として錬金術士パラケルススの所持していた「アゾット剣」の伝承に由来するのではないか。AZ王を思い起こさせる語句として、むしろ死者を蘇らせようとしたAZは錬金術のAZOTHから名前をとったという解答かもしれない。ちなみにCDが発売されたサウンドトラックの「AZOTH」という曲は、『XY』の「AZ」のテーマ曲のアレンジである。
AZOTHのOTHがそれぞれレジスチル・レジアイス・レジロックの頭部に見られる点を結んだ形状"⦿十H"に似ているというファンによる考察があるが、点字の碑文に書かれた「えいえんのポケモン」と錬金術の関係は当たらずとも遠からずという印象だ。どこまで考えて作りこまれたキャラクターなのか不明だが興味深い。それぞれが封印されていた場所のモデルとなったのは古墳である可能性が高い。
この計画はヒガナがマグマ/アクア団に与えた手ほどきによるものとされている。
AZとメガシンカについて
最終兵器を作った本人AZがメガシンカの誕生を目撃した様子が劇中で語られている。
『世の揺らぎ(最終兵器の影響)より生まれしもの すなわちΔ(メガレックウザ)
人の祈りと石(メガストーン)の絆にて 世界に生まれし揺らぎを平らか(?)にする』
太古からポケモンの生体エネルギーは凄まじいポテンシャルをもっており、永遠の命や無限大のエナジーを生み、錬金術を彷彿させる存在で、それを巡って興亡が起こってきたという話だ。次にエネルギーの概念について話を進めよう
「まさかこの大木が…カロスより訪れし巨大な男から贈られたものだったとは…」不死の肉体を得たため2千年も生きてホウエンにも訪れたことがあるらしい。3mもの背丈があるため、当時の人々にも印象深かったのだろう。彼の言葉は難解だが、彼自身が発言した意味としては以下のように読み取れるだろう。
背の高い異国の男はこう言った
『世の揺らぎより生まれしもの すなわちΔ(デルタ)
人の祈りと石の絆にて世界に生まれし揺らぎを平らかにする』…と
『世の揺らぎ(最終兵器の影響)より生まれしもの すなわちΔ(メガレックウザ)
人の祈りと石(メガストーン)の絆にて 世界に生まれし揺らぎを平らか(?)にする』
太古からポケモンの生体エネルギーは凄まじいポテンシャルをもっており、永遠の命や無限大のエナジーを生み、錬金術を彷彿させる存在で、それを巡って興亡が起こってきたという話だ。次にエネルギーの概念について話を進めよう
生体エネルギーと自然エネルギー
メガシンカと生体エネルギーの関係についてはソライシ博士の発言が手がかりとなる。今回はロケットの中にあるポケモンの生体エネルギーと
キーストーンに秘められた人間の生体エネルギーを掛け合わす―つまり
メガシンカのときに発生する長大なエネルギーを人工的に作り出すことから始まる
メガシンカとは「ポケモンが本来持ち合わせているエネルギーに、人間≒トレーナーのエネルギーが加算されたことによる一時的な現象。エネルギーの接続は、人間側のキーストーンとポケモン側のメガストーンが媒介となり、信頼関係や祈りなど人間とポケモンの意思疎通の力がそれを可能にする」原理という結論が出る。
生体エネルギーという単語も第六世代で急に登場したたように感じられるが、シリーズに以前から存在する概念「はどう」や「オーラ」といった生命力の表現を科学的アプローチで呼称したようだ。
「みずのはどう」や「りゅうのはどう」は英語版ではPulse(パルス)と訳され、ルカリオの図鑑文章中の「はどう」や「はどうだん」についてはaura(オーラ)と訳されている。パルスとして体内の脈動や放出する攻撃エネルギーの波形を指し、スピリチュアルなエネルギーのニュアンスとしてオーラと同一視しているのだろう。ちなみに「はどう」のゲーム中の漢字表記はほぼ「波動」だが、「はどうだん」の技説明文のみ「波導」となっている。
一方で今作には自然エネルギーという単語が登場する。ゲンシカイキに関わるエネルギーであり、それはメガシンカとは別のアプローチの進化の形とされる。ゲンシカイキに関してはORASのシナリオ考察 4 ゲンシカイキ で考察した「絶滅」というキーワードの通り、人やポケモンの生体エネルギーと相対するものとして自然エネルギーが登場したのだろう。
ORAS本編でめざめのほこらでゲンシカイキの事件解決後、地下からあふれた自然エネルギーがホウエン地方の生態を豊かにした(出現ポケモンが変わった)現象から、自然エネルギーと生体エネルギーは相互に関係していると考えられる。命が生まれることで生体エネルギーへ、死んで海や地に還ることで自然エネルギーへと循環しているというイメージだ。
XYにおけるゼルネアスの与える、イベルタルの奪う、という設定上の役割も、このエネルギーの循環を指して生と死を司どっているのかもしれない。ゼルネアスのジオコントロールは地球操作の名の通り自然エネルギーを自身の生体エネルギー活性化に還元できるニュアンスなのかもしれない。このエネルギーの循環こそαにしてΩ、永遠のテーマに思える。
"いんせき"をえんとつやまの自然エネルギーでメガストーンに近いものへ変化させたことと、最終兵器に含まれるゼルネアス/イベルタルのパワーがメガストーンを生む仮説は無関係ではないだろう。
陸と海の化身であるグラードンとカイオーガが、自然の脅威的一面を強調したパワーアップを遂げたゲンシカイキに対し、レックウザは何故メガシンカという役割を与えられたのか。そこにエピソードデルタ最大の存在理由があると考える。
メガシンカと絆
メガシンカと絆
地震と津波そして"絆"と聞けば、日本人の多くは2011年の東日本大震災、3・11を思い出さずにはいられないのではないだろうか。G3,G4と2世代ずつずれてリメイクされてきた過去タイトルだが、ORASがG5のBW(2010年)の後ではなくG6となったのには、震災への配慮があったという憶測もあった。G5におけるリメイク延期は定かではないが、3・11以降の作品においてその影響なしに語ることは不可能だろう。
伝承中にある「隕石やゲンシカイキによる厄災を人々の祈りとメガシンカ≒絆の力で乗り越えた」という寓話は、被災地の復興へ向けた理想像であろう。ポケモン株式会社はPokemon with you ポケモン復興支援
のような活動を震災直後から続けており、関連してポケモン全体の方向性として"絆"という単語への執着が強くなったように見える。恐らくメガレックウザは、専用技ガリョウテンセイ=画龍点睛の意図するメガシンカの物語の不可欠なピースとして、絆の力で切り開く希望としてのポジションを担ったのだろう。
全ての原作である、初代ポケモンにおいても絆のニュアンスがなかったわけではない。オーキド博士はライバルの敗因を「ポケモンたちへの信頼と愛情を忘れている」と諭した。ただしそれはただの台詞であり、パラメータとして存在するものではない。それが具体的に描かれたのはサトシとピカチュウのようなアニメシリーズが有名だろう。
アニメやコミックでは信頼と愛情をシナリオに盛り込んで描けるが、ゲームでは多種のポケモン・多数の個体から自由に選べる楽しさをもつ故に一匹との関係は希薄であった。ゲームでもポケモンとの関係をより豊かに表現しようという試みが加えられていく。
アニメやコミックでは信頼と愛情をシナリオに盛り込んで描けるが、ゲームでは多種のポケモン・多数の個体から自由に選べる楽しさをもつ故に一匹との関係は希薄であった。ゲームでもポケモンとの関係をより豊かに表現しようという試みが加えられていく。
アニメに準じて作られた『ピカチュウバージョン』からピカチュウのなつき具合が設定され、『金銀』以降「なつき度」として定着したパラメーターは、アニメの影響のひとつといって良いだろう。しかし、アニメのイメージ定着と同時にに、ポケモンの対人戦の大会も盛り上がり、ポケモンとの絆と、ポケモン対戦の戦略上の取捨選択が、相反し始めたといえる。
世代が進むごとに対戦ゲームとしてのポケモンは更に戦略性を増し、より勝率を稼ぐため大量に捕獲したポケモンの中から個体を「厳選」する行為もプレイヤーの間で定着していく。ポケモン廃人と化したコアなプレイヤーの間では「ポケモンのシナリオはチュートリアル、クリア後が本番」とも言われるようになった。エメラルドのバトルフロンティアに嵌っていた時代の筆者も当時そんなことを口走ったかもしれない。
世代が進むごとに対戦ゲームとしてのポケモンは更に戦略性を増し、より勝率を稼ぐため大量に捕獲したポケモンの中から個体を「厳選」する行為もプレイヤーの間で定着していく。ポケモン廃人と化したコアなプレイヤーの間では「ポケモンのシナリオはチュートリアル、クリア後が本番」とも言われるようになった。エメラルドのバトルフロンティアに嵌っていた時代の筆者も当時そんなことを口走ったかもしれない。
ゲームでDPが出ると、ついにアニメにまで「厳選」行為をする少年シンジがライバルとして登場する。ゲーム同様に強さを求める行為を準えるシンジと、仲間との信頼と愛情を絶対とする主人公サトシの衝突を描いたのは、対戦ゲームとしての仕様(クリア後の対戦育成)と冒険の仲間との絆(殿堂入りまでのシナリオ)が乖離している状況に真正面から斬りこんだ試みだ。アニメDPはシンジの価値観も肯定しつつ、サトシの勝利という結末を向かえる。ゲームが作った世界観とそれを壊しかねないゲーム、究極のポケモンを目指して作られたゲーム『DP』の次回作は、その自問自答から生まれたのではないだろうか。
ポケモン解放からメガシンカへ
G5の完全新作『BW』は、ポケモンと対話できる人物Nによる「モンスターボールから解放すべき」という劇中主人公のみならずプレイヤーへの問いかけを主題のひとつに据えている。野生のポケモンを捕獲していく行為が当たり前になったこのゲームにおいて、あくまでその行為を見つめなおして再定義しようという試みで、直接的に厳選行為のことを非難しているわけではなく、動物愛護団体PETAのような極端なアンチに対する回答というわけでもないだろう。
様々な人種、色々な考えを持つ人々がひとつの地に集まった「一種」からネーミングされたイッシュ地方を舞台に「お互い信じる真実と理想は異なるけれど」と前置きしつつ「ポケモンと一緒にいたい」と思ってほしいと願いの込められた一作であった。
さらにその続編『BW2』では「ポケモンの潜在能力を引き出す術は何か」と問う人物アクロマを登場させ、「ポケモンは人と共にいた方が強さが引き出される」とポケモンシリーズ自身、そしてゲームをしているプレイヤーをも肯定した。「モンスターボールからの解放」と向き合うことは、ポケモンがゲーム性を保ちつつ、メディアミックスなど外的要因とバランスをとるために、必要な過程であったかもしれない。
それを経た上で、『XY』で人とポケモンが共にあるメリットの部分を発展させたのが"絆"によるパワーアップ「メガシンカ」なのだろう。絆の表現としては「ポケパルレ」による「なかよし度」も追加されたがメガシンカのシステムと関係が全くなかったのは残念である。シナリオで描かれるイメージと違い、アイテム・メガストーンの有無のみがメガシンカの条件であったのは、未だシナリオ要素と対戦ゲーム要素が乖離し続けていることに他ならない。「エピソードデルタ」後のミツルがポケモントレーナとしての強さを求めた姿の描写の賛否は、制作側がその乖離故の摩擦に無自覚だったと思わせる一節だ。
さらにその続編『BW2』では「ポケモンの潜在能力を引き出す術は何か」と問う人物アクロマを登場させ、「ポケモンは人と共にいた方が強さが引き出される」とポケモンシリーズ自身、そしてゲームをしているプレイヤーをも肯定した。「モンスターボールからの解放」と向き合うことは、ポケモンがゲーム性を保ちつつ、メディアミックスなど外的要因とバランスをとるために、必要な過程であったかもしれない。
それを経た上で、『XY』で人とポケモンが共にあるメリットの部分を発展させたのが"絆"によるパワーアップ「メガシンカ」なのだろう。絆の表現としては「ポケパルレ」による「なかよし度」も追加されたがメガシンカのシステムと関係が全くなかったのは残念である。シナリオで描かれるイメージと違い、アイテム・メガストーンの有無のみがメガシンカの条件であったのは、未だシナリオ要素と対戦ゲーム要素が乖離し続けていることに他ならない。「エピソードデルタ」後のミツルがポケモントレーナとしての強さを求めた姿の描写の賛否は、制作側がその乖離故の摩擦に無自覚だったと思わせる一節だ。
メガシンカはポケモン解放から始まる、そしてAZが求めた「トレーナーとはなにか知りたい」という問いに対するひとつの挑戦でしかないのだろう。今後G7で実装されるという「Zワザ」や「すごいとっくん」によって、「厳選」に替わるゲーム性や効率と、冒険の仲間との「絆」は両立できるだろうか。今後メガシンカがどう位置づけられていくのか要注目である。
やや話を拡げてしまったが、エピソードデルタにはXYから始まったメガシンカに関する設定の補完だけでなく、震災などを背景にメガシンカそのものに託された"絆"の力を背負ったストーリーとしての役割があったと思われる。ORAS本編の改変点の多くも、そのための伏線、設定補強としての目的があったことが伺えるだろう。
4.総括!エピソードデルタ
エピソードデルタが担っている要素として、「既存ファンに向けたエメラルドバージョン要素の補完」
「オリジナルRSとの似て非なる関係を成立させるための並行世界の示唆」
「メガシンカの設定・ストーリー的補完」
をこれまでのポケモンシリーズの流れと合わせて細かく見てきた。デルタはこれらに加えて、
「XYの後に制作されたORAS」
「XYより時系列が前であるORAS」
「RSの12年後に発売したORAS」
「XYのアニメと同時進行のORASタイアップ」
といった情報の混乱がプレイヤーだけでなく、制作側にもあっただろう様子がテキストの端々に現れている。エピソードデルタのカオスさは処理すべき要素の煩雑さによるところも大きいだろう。これらを強引にまとめ、場をかき乱し物語を進行させる、まさにトリックスターと言える存在が流星の民の末裔"ヒガナ"である。デルタは彼女の存在に集約していく。
ヒガナの目的と行動
肝心のレックウザを光臨させる方法として以下の2つの選択肢があった。
1.カイオーガ/グラードンを目醒めさせ、治めるためにレックウザが光臨する
2.多量のキーストーンを集め、そらのはしら頂上で光臨の儀を行う
ORAS本編では1を実行すべく、マグマ/アクア団へ潜入し、プロジェクトAZOTHに至る手ほどきをしていた。しかし主人公の活躍により、レックウザが現れる前に解決してしまう。
エピソードデルタは代案として2を実行に移すところから始まる。
計画遂行のほか、伝承による方法を唯一絶対の最良の方法と信じ、例え同じ目的を有していてもデメリットが高いと判断した他の計画は阻止する。
ヒガナの動機とキャラ設定
どうすれば一番多くの幸せを守ることができるのか考えてきた本人の意志でなく居なくなったジガナの人生を生きている状態で、かつ当人には十分な能力・情報が不足しているため、言動に配慮が足りなかったり支離滅裂に見える、と解釈していいだろう。知識や思考、発言さえもシナガの受け売りの可能性もある。
力と知恵を持つ者の宿命として…それをなせなかった者の意志を継ぐ者として…
シガナの正体は明かされないが、ヒガナの強引な行動には何か理由があると納得させる装置としてゴニョニョのシガナを連れ、常に"その場にいない誰か"と話している演出に使っている。ヒガナとの関係や、実際どうなったのかはシナリオを読み解く上で掘り下げる必要はないだろう。
ヒガナの立ち回りは、ポケモンシリーズのテンプレートで言えば、主人公の冒険を手助けし最後に立ちはだかるチャンピオン、若しくは主人公のゆく先々で出会い伝説のポケモンと出会う前後で立ちはだかる悪の組織ボスあたりの存在感だ。悪の組織に加担し、主人公の仲間を傷つけ、伝説のポケモンを用いた計画を目前に挫折する… 従来のシリーズのプレイヤーからすれば今までの悪の組織ボスの系譜にしか見えないだろう。
ヒガナと想像力
きちんと考えてほしいの 必要な犠牲と不要な犠牲の二つがあることをヒガナはそれを怠ることを「想像力が足りない」とした。
ホウエンを守る上で彼女が何を犠牲として必要、不要としたか見てみよう
1.マグマ/アクア団への加担によるレックウザ光臨で生じる必要な犠牲・プロジェクトAZOTHに関わる組織の行動による窃盗や人的被害・最終兵器の技術を転用したドリル兵器を使用することのリスク・グラードン/カイオーガを目醒させた災害による被害2.多量のキーストーンによるレックウザ光臨の儀を行うことで生じる必要な犠牲・キーストーンを多数集める(借りずに奪う理由は不明)・自身にもしものことが起こるリスク(詳細不明)3.次元転移装置による巨大隕石のワープ計画によって生じる不要な犠牲・最終兵器の技術を転用したロケットを使用することのリスク・ワープさせた先に隕石に対処する術の無い似て非なるホウエン地方があるリスク
特筆すべき台詞として3の計画に対する発言に注目したい。
人間が考え出した3000年前の忌まわしきテクノロジー……1の計画で自身が関わっている組織の計画で既にデボンの∞エナジーに手を染めたことを棚にあげた発言と言えよう。自身の好き嫌いの話であり、もはや犠牲の要不要とは無関係の話題であった。
あなたたちはまた人類のために とか世界のためにとか言って
昔々に犯した過ちを繰り返すつもりなんだね
∞エナジーのリスクを除いてもゲンシカイキのによる犠牲の方が、似て非なるホウエン地方に隕石が落ちるよりマシと「知っている」。並行世界の存在や次元転移先を確信していたとして、他者を納得させたり、証明する術を彼女は持ち合わせていない。理解を求めるより先に、破壊し、奪っていく。ヒガナの想像力は既定路線で、シガナから聞き知った伝承や取捨選択の内から出ることができないのだ。
ワープシステムの次元転移による解決の問題点は「この星のどこかでない」ことしかわかっておらず、ソライシ博士も言葉を濁した不確定要素にある。ワープした先が生命のある惑星だったら、他の文明のある惑星だったら…という想像を説けば、厄災の押し付けが根本の解決でなく、コストの限界などを理由にした怠惰に過ぎないなどを理由に説明できるだろう。唐突に似て非なる世界のホウエン地方など持ち出しては共感を得られない(劇中人物ではなく、プレイヤーへ向けての台詞)。
(あと一人のメガシンカの使い手ルチアは忘れられたのか、舞台裏で襲われたのだろうか。)
ヒガナの失敗と果たした役割
ダイゴへのキツイ当たり(左)と主人公への反応(右) |
ヒガナは主人公とダイゴからは何故かキーストーンを奪おうとしなかった。チャンピオンと元チャンピオンには敵わないとふんだのかは不明だが、両者への態度はまるで違う。ダイゴへの敵意にあふれた辛辣な態度と、どんな返答(はい・いいえ)を選んでも返される主人公への甘い受け答えの違いが一体なんなのか、明確に示されることはない。
このダイゴの受難は、『エメラルド』要素としてチャンピオン交代の示唆の一幕へ繋がる。シナリオに課された多くの課題をクリアするため、このようにヒガナの行動は謎の偏りを見せている。まるで彼女はシガナ≒シナリオ都合に囚われたキャラクターだ。
事実、レックウザ光臨には成功するがメガシンカさせることはできなかった。主人公の所持していた「メガストーン化しつつある"いんせき"」を喰わせることで事なきを得る、そこから「伝承者」としての役割が主人公へ明け渡されることとなる。ヒガナ一人では世界を救うことはできなかったが、巨大隕石の危機を回避するべく「伝承」する役割は果たせただろう。
カタルシスの浄化が足りない
ヒガナのポジションがこれまでの悪の組織のボスの所業に比類するのに対し、レックウザを前に彼女は伝承者としての挫折を経て、物語を自己完結してしまう。ヒガナとのバトルに、彼女の行動に対する苛立ちや仲間のキーストーンを奪ったカタキといったプレイヤーに積もったマイナスの感情をぶつけ、勝利によってカタルシスが浄化されるような機会が与えられなかった。戦うのはガリョウテンセイの制御の伝承という、いい人、主人公を手助けするチャンピオンの類のポジションに納まっている。そういった部分が多くの人がモヤモヤを残していると思う。
個人的な好みのバランスでいえば、例えば伝承者としてレックウザに選ばれることに固執した状態で挑まれ、闘いを通して冷静にさせるなどのステップを踏みたかった。(例えばNの夢を打ち砕く後味の悪さをカバーするゲーチス戦などのように)
あるいは、ヒガナの受け継いだ伝承の欠点を、宇宙センターやデボンの技術でカバーする、それこそポケSPのORAS編で成されようとしているような展開を盛り込めたはずだ。実際レックウザと共に飛立つ直前主人公がマグマ/アクアスーツを着て宇宙へ備えている。この行間にそのようなやりとりが挟まっていたかもしれない。
あと 少し逸れるがこれだけは言っておきたい。
ヒガナがシガナへの想いを主人公へ語るシシコ座流星群のシーン、演出上夜にせねばならず
昼間のプレイでも時間が飛ぶことになるので、その間「主人公が寝ていた」ことにされる。
「おはよう」と言われても意味がわからないし、背景の時間帯はそこまで気にならないのでずっと夜〜夜明で良かったのではないだろうか。配慮が裏目に出てテンポを崩している。
ラストのデオキシス戦の導入などは鳥肌もので、それまでのモヤモヤも吹き飛ぶ素晴らしさだ。これがカタルシス浄化として足りなかったのは、事前の公式告知で展開を知ってしまったことが大きく影響している。公式が言わなければ幻のポケモンがプレイ中に現れるなど夢にも思わなかっただろう。このサプライズを、プレイ中に味わいたかった想いでもう1万字語れるほどだ。悔しいなぁ。
(言わなかったら言わなかったで文句を言われてしまう故の配慮だとは思います。)
5.ORASのその先
『XY』と『ORAS』の矛盾点、カロス地方にしかメガシンカが確認されなかったはずの『XY』について、他に解釈がある。
『ORAS』と『RS』のホウエン地方の違いは、最終兵器の発動に関わらず、メガシンカの発見がメガレックウザによるものか、後年カロス地方でメガルカリオによって発見されたものか、という説だ。つまり"完全新作"ディレクター毎に異なる設定として仕切り直された世界である。(超メタ)
インドぞうがいた世界
田尻:赤緑→(タイムマシン:3年)→金銀
メガルカリオでメガシンカが発見された
増田:RS≒FRLG→(3年)→HGSS≒DPt→BW→(2年)→BW2→XY
メガレックウザでメガシンカが発見された
大森:ORAS→サンムーン
産みの苦しみを乗り越えた田尻氏の後、思えば長かった増田ディレクターの時代。大ヒット作というプレッシャーのもとで、『RS』を区切りに一新された新たなポケモン世界を育ててくれたのは彼のおかげである。
田尻:赤緑→(タイムマシン:3年)→金銀
メガルカリオでメガシンカが発見された
増田:RS≒FRLG→(3年)→HGSS≒DPt→BW→(2年)→BW2→XY
メガレックウザでメガシンカが発見された
大森:ORAS→サンムーン
産みの苦しみを乗り越えた田尻氏の後、思えば長かった増田ディレクターの時代。大ヒット作というプレッシャーのもとで、『RS』を区切りに一新された新たなポケモン世界を育ててくれたのは彼のおかげである。
いつか全ては終わり そして… 新たな始まりを迎えるG7サン・ムーンへの期待は…エピソードデルタにデオキシスイベントをぶちこんだ大森ディレクターを信じる!ってところで如何でしょうか?
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