『ポケモン20thを祝いつくす動画』ではタイプごとにテーマを設け、それぞれのタイプに合った演出を心がけました。ポケモンシリーズの"ポケモンらしさ"の一因に、その独特のタイプ分類と相性の関係があると思います。ポケモンの制作者たちがこの世界をどう観ていて、どう分類しているかセンスとして表れています。
20周年を機に、改めてポケモンの世界観をタイプ分類の意図を汲みとりながら考察したら、面白い動画ができるかな、という試みでもあります。
かくとうタイプのルーツ
ポケモンにどうして格闘というタイプが存在するかを考えるにあたって、日本の格闘ブームからの影響を見てみましょう。戦後1950年台からプロレスブームがあり、力道山の「空手チョップ」がワザとして引用されていたり、ゴーリキーのデザインに現れています。悪役レスラーの存在や「かみつく」事が反則の禁じ手だったりすることは、あくタイプと かくとうタイプの関係に少なからず影響はあるでしょう。
60年台には柔道一直線という漫画のブームで柔道を始めた有名選手も多く、作中からは「地獄車」などがポケモンのワザに。(自分は地獄車をラッキーマンで知りました)
カンフー映画ブームの流れを汲む漫画 "北斗の拳"の北斗剛掌波、”ドラゴンボール"のかめはめ波、ゲームの"ストリートファイター"の波動拳、と来てルカリオの「はどうだん」までエネルギー弾のルーツも全て格闘ジャンルですね。
格闘ゲームという文化の存在は欠かせないでしょう。ゲームにおいてプレイヤーどうしのかけひきが生じる楽しさ、対戦型格ゲーブームを作ったのはカプコンのストリートファイターⅡと思われます。
形は違えどポケモンがNPC相手だけでなく対人戦も盛り込まれた経緯もそこにあるはずで、鉄拳シリーズとのコラボと言える"ポッ拳"もその流れを継いでいるでしょう。
ポケモンの生誕を祝う上で、そこに至るゲームの文脈もリスペクトしていこう、ということで勝手ながらかくとうタイプのロゴはストリートファイターをオマージュしました。ロゴをつくってくれたのはT.Mさんです。
前半パート 選手紹介
詳しい設定を作りこんでいるわけではないですが、格闘タイプオンリーの大会が開かれている状況を想定しています。現実のK-1なんかをイメージしています。
前半のBGMはエメラルドより「バトルドーム」鬱Pさんによるアレンジ。トーナメント戦の緊張にぴったりの曲です。
まず試合会場、モブもかくとうポケモンを連れたトレーナーで賑わっています。
外見、内装、リングなどのデザインを手がけたのは万夜さん。後に活躍するケルディオパートも担当されています。リング中央にも描かれている赤と青の大会トレードマークは、エビワラーの拳とサワムラーの足のぶつかりあいをモチーフにしたそうです。
ラウンドガールとしてメガミミロップをあててみました。担当はおるらいさんです。むさ苦しいかくとうの世界に潤いを。
試合への関心、盛り上がりを見せるために、観客側を通り抜けます。ここの人物とポケモンは全てぼっこさんに描いていただきました。マンキー&たんパンこぞう、マクノシタ&バトルガール、ブレイン&パワーズ&ドッコラー&アサナン、えんじ&ワンリキー、エリートレーナー&ヤンチャム&リオル、スモモ&ゴーリキー。
対戦相手の掲示として格ゲーのセレクト画面を意識した作りで紹介していきます。
バルキーはその姿勢からレスリング、プロレスと区別してアマチュアレスリングとも呼ばれる競技がモチーフでしょう。紀元前の古代ギリシャの頃から盛んなスポーツ。担当は帆美さん。
コジョフーは動物のオコジョxカンフーと思われます。担当は猫さん。
オコリザルは怒りによる暴力といった所でしょうか。マンキー共々"ぶたざる"という創作生物としての魅力もあります。担当はモギノさん。とにかくキレてヤバイ奴感を協調しました。
ドテッコツは木造から鉄骨に進化した土工。オコリザルとアオスジ対決。担当は青波燦さん。
ハリテヤマは相撲の関取。担当は杯天さん。余談ですが「ねこだまし」は相撲の戦法。
ニョロボンは水泳選手の筋肉質なイメージからかくとうがついたのか。初代の時点ではなぜかオタマジャクシのままでしたが、後に金銀で蛙なニョロトノに分岐進化しました。担当は はるさん。
サワムラーの名前はキックボクサーの沢村忠からとられたというのは有名ですね。彼の半生が「キックの鬼」として漫画・アニメ化もされています。担当はオカザキさん。セレクト画面でアップにしたときに特徴的な脚が隠れないようにポーズを調整していただきました。
ダゲキのモチーフは空手家の大山倍達。彼を漫画にした「空手バカ一代」では修行の山ごもりを徹底するため片眉を剃って人里に出られないようにしたエピソードがあり、ダゲキのデザインもこれを意識しているよう。片眉は沢村忠も実践したそうです。担当は素壱さん。
ポケモンの人気要素には、憧れの選手やヒーロー、怪獣、ありとあらゆる生き物たちが同じ土俵にたって闘うドリームマッチとしいう側面も大きいですね。
コジョンドは紀元前の伝説の中国拳法 孫ピン拳(別名:長袖拳)を意識した設定やデザインですが、名前の由来としては、かのブルース・リーがカンフーを発展させた截拳道(ジークンドー)がコジョフーの進化系としてイメージが合っていそう。
ルチャブルはルチャリブレというメキシカンタイプのプロレスがモチーフで、覆面レスラーが多い。ひこうタイプがついたのは日本で活躍したミル・マスカラスの空中殺法のイメージが強いからと推定されます。コジョンドvsルチャブルはしんよこさん。
キノガッサはモチーフが未だ謎のかくとうタイプ。(キノコではないですが同じく胞子で繁殖する"ワラビ"がもモチーフで→動物のワラビーとかけているのでは…というのが2021年時点の妄想です) 以前はキノコのほうしで猛威をふるっていましたね。
カポエラーはブラジル発祥のカポエイラ。黒人奴隷たちが自衛のための格闘訓練を踊りに見せかけて行ったためダンスの要素が含まれていると言われています。手枷されていても繰り出せるように足技が発展し、その動きは後のブレイクダンスに繋がるとか。
これまでの逆立ちのイメージからXYでステップを踏む待機モーションに驚いた人も多いと思いますが、カポエイラにはサンバのリズムが継承されており、踊っているように見えるのはむしろ元ネタに忠実です。キノガッサvsカポエラーの担当はヨトさん。
ナゲキのモチーフは柔道で、初登場時に専用技であった「やまあらし」は柔道家・西郷四郎の得意技。彼をモデルとした小説「姿三四郎」は西郷と同じく小柄な柔道家で、ナゲキのデザインにも影響を与えているかもしれません。エビワラーはボクシングの元フライ級王者・海老原博幸が名前の由来というのも有名。強力な左効きのストレートはカミソリパンチと呼ばれていました。ナゲキvsエビワラーは しんよこさん担当。
ローブシンのネーミングは恐らく"老武神"でコンクリートの柱を凶器に持つのが中々恐ろしい絵面。かつてコンクリート技術を人に教えたという図鑑説明はシュールですが、ローマのコロッセオなど2000年経っても形を維持してきた"古代コンクリート"のことを指しているようです。担当は素壱さん。
カイリキーはプロレスラーを思わせるデザインで"怪力"の名に恥じない筋肉モンスターですね。担当は 漫画家だろめおんさん。ケンガンアシュラ読もう!
後半 格闘パート
後半からBGMがBW2の「PWT決勝戦」になります。こちらも鬱Pさんのアレンジです。
具体的な試合の様子を見せていきます。
元ネタ的には孫悟空vs猪八戒かも? 観戦客が動く背景やHP表示が格ゲーというか"ストⅡ"を意識。格闘タイプのジムリーダーでも四天王でもないマキシの主張が激しいですが「リングはオレの海」と歌う彼もまた格闘を愛する一人でしょう。背景・客はあぜみちとんびさんです。
メガバシャーモは特性の「加速」で魅せました。手首から尾をひく炎が加速する本体に遅れてついていく、という描写に拘ってます。作画は れっさあぱんださん担当。サイボーグ009の加速装置にはじまり、超高速戦闘はアツいです。軍鶏の翼を模した髪型だったデザインが一変、なんだか"鉄拳"の三島平八に似てますよね。通常バシャーモは 後のほのおタイプの動画出演のために格闘タイプには出ませんが、実はキャラセレクトの中にいたりします。
XYのブリガロン登場。名前の由来は兵士の鎧であるブリガンダイン。ニードルガード、隠れ特性のぼうだんも意識し、守りの堅さで魅せています。きたジョーさん担当。
メガチャーレムはヨトさん担当。特徴である精神力で作った4本の腕を展開するところをクローズアップしました。ヨガのパワー ここでアクセル全開、インド人を右に!
ポケモンの主人公はトレーナーですが、格闘技・スポーツでは選手が主役。しかしやはり選手の力を引き出すのはトレーナーの役目であり、それを成すためにも信頼関係は不可欠でしょう。そんな関係を描くのにメガシンカはうってつけです。ゲームやアニメでは見られないようなドリームマッチ、コルニのルカリオvsミツルのエルレイドを入れました。(※後年ポケマスで見られるとは思ってませんでした)
"かくとう"タイプをテーマにしておきながら、実際の格闘描写を入れないのはあり得ないだろうということで、後半はバトルシーン中心の構成にしました。とはいえファンによるこの企画、アニメーションをバリバリ描くような人ばかり集められるわけではありません。
格闘技の応酬など高度な表現は避け、限られた時間で演出可能な表現や枚数を相談しながら構成を決めていきました。ルカリオvsエルレイドはパフさんの絵コンテ、作画です。レイヤーを分けて手足などのパーツを描いてもらい、生㌔が動かしました。入場〜メガシンカしながらリングへ上がり即臨戦態勢、静止画の時点でも動き出しそうでダイナミックな構図が格好いいです。
乱入者メガミュウツーXからは生㌔コンテ、作画は引き続きパフさんです。サイコパワーを全て筋力に注ぎ込んだ物理攻撃のお化け、というイメージで演出。ミツルを守るメガエルレイド、応戦するコルニとメガルカリオとそれぞれ活躍するカットを用意しつつ、歯が立たないことを見せてメガミュウツーの強さを印象づけます。
生㌔はミュウツーの首の後ろの管のデザインが大好きなので、2本に増えたXの管もビクンビクンさせて強調しておきました。
パフさんには膨大な量のカットを担当して頂いて負担が大きかったと思いますが、おかげさまでとても良いシーンになりました。劇場版「ミュウツーの逆襲」のように火の海に佇むメガミュウツーX。
これ以降は絵コンテと作画担当を万夜さんにバトンタッチして、ケルディオに焦点をあてていきます。万夜さんの発案で、BWのケルディオイベントで明かされた、ゲーム内でのケルディオの過去回想を入れています。配布がBW2以降なので、BWの方で「しんぴのつるぎ」習得イベントを見た人は少ないかもしれません。
「人がはじめた戦がもとで この森が焼けてしまったとき
1匹の幼いポケモンが 親とはぐれてしまった…
親がいなければそのポケモンは 生きていけないと思ったのじゃろう
コバルオン テラキオン ビリジオンは その幼いポケモンの 親代わりとなったのじゃ
3匹はこの子の親がわりとなり 生きるために必要な 知識や技を伝えたという…
やがて幼かったポケモンはすくすくと成長し
3匹をもしのぐほどの力を みにつけたといわれるほどになった」
最後の止め絵で劇画調の彩色に変わるのは、アニメポケモンのラストカットでもよくある「ハーモニーカット」です。
かくとう動画全体で「ケルディオの成長物語」としてまとめるため、担当の万夜さんに動画内の背景のスタジアムのデザイン・作画もお願いしています。
かくとうタイプ編に含まれる文脈は「スポーツとしてのポケモンバトル」「戦いの経験を重ねて強くなっていく」「トレーナーとの信頼関係」といったポケモンの要素の中でも王道中の王道なのではないでしょうか。
次回はタイプの中でも一番新しいフェアリータイプの解説をします。
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